ラヴェルとファジル・サイの新作に読む異文化への憧憬
音楽監督ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団の絶好調ぶりはすでに広く知られた通り。ノット、秋山和慶と並んで、今の東響に欠かせぬ存在が正指揮者を務める飯森範親である。ノット以上に攻めた選曲で刺激的、かつ新たな世界に出会う歓びを感じさせてくれているのだ。
今回のプログラムはラヴェルを中心にしつつも、大人気ピアニストで作曲家のファジル・サイによって書き下ろされた、チェリスト新倉瞳のための新作が披露される。ユダヤの民族音楽クレズマーなど、クラシックの枠からはみ出るような音楽にも力を注ぐ新倉にとって、サイの音楽は相性抜群。これまでもチェロ・ソナタなどで、松脂が飛び散るような熱い演奏を聴かせてくれており、2018年11月には来日中のサイからの呼びかけで急遽、飯森、新倉を交えた三者で打ち合わせをするなど、準備もつつがない。新作「11月の夜想曲」でどんな世界に出会えるのか実に楽しみだ。
一方、ラヴェルの選曲も面白い。19世紀のウィーンを回顧する「ラ・ヴァルス」に、スペインに題材をとった「道化師の朝の歌」「スペイン狂詩曲」「ボレロ」と、ラヴェルが異文化へ思いを馳せた作品が並ぶ。各国でナショナリズムが高まる現在だからこそ、様々な文化にクロスオーバーした楽曲や音楽家の地道な活動の意義は高まっている。今後は、ピアニストとして以上に、作曲家として名前を見かける機会がどんどんと増えていくであろうサイの最新作に注目だ。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2020年2月号より)
東京オペラシティシリーズ 第113回
2020.3/21(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
http://tokyosymphony.jp