様々な風を体験し、“生きる力”を感じてほしい
日本屈指の実力派ピアニスト・小菅優が「Wind」と題したリサイタルを行う。これは、「水・火・風・大地」の四元素をテーマにしたシリーズ「Four Elements」の3回目にあたる。
「ベートーヴェンのソナタ全集後の企画として、人間の原点を深く掘り下げるべく、このシリーズを始めました。元素の描写だけでなく、シンボルとしてのメッセージを含めた選曲を行い、今までとは異なるレパートリーや自分の違った面を聴いていただきたいとの思いも込めています」
「特に魂的な要素を含んでいる」と語る「風」は、ダカン、クープラン、ラモーの作品で始まる。
「昔からフランス・バロックが好きなのですが、演奏するのは久しぶりです。ダカンの『かっこう』は、彼が8歳で指揮をした天才だというのがわかる素晴らしい作品。ラモーのクラヴサン曲は、音そのものがオペラのように語っているところに感銘を受けます」
中盤は、西村朗の「迦陵頻伽(カラヴィンカ)」にベートーヴェンの「テンペスト」ソナタが続く。
「西村さんの曲は、2006年ザルツブルク音楽祭デビュー時に書いていただいた作品。体は鳥で頭は人間である生き物が美しい声で人間の魂を救うという独特の世界が描かれており、倍音を使ってそうした内容をイメージできるような響きをお届けします。『テンペスト』は、大好きなソナタのひとつ。劇的な対話やドラマを想起させる音楽で、ハイリゲンシュタットの遺書後のベートーヴェンの新たな使命感を感じます」
後半は、フローラン・シュミットの「シルフィード」、ドビュッシーの「前奏曲集」から、ヤナーチェクの「霧の中で」と近代の作品が並ぶ。
「シュミットはフランスらしいハーモニーとワーグナーのような官能性を持つ作曲家。『シルフィード』は技術的な難曲ですが、どうしても入れたかった作品で、風の精がずっと舞っているように転調を続けます。またドビュッシーの『前奏曲集』には“風”や“霧”がたくさん出てきます。“ヴェール”という意味も持つ〈帆〉、本当に風の中を駆け巡るような〈夕べの大気に漂う音と香り〉、童話や伝説を背景に持つ〈西風の見たもの〉〈沈める寺〉など。『霧の中で』は、悲惨な状態だったヤナーチェクの心の霧が表現された音楽で、メロディがどれも霧の中に消えてしまう儚い曲ですが、最後は『テンペスト』同様に『生きていかなければいけない』という強さを感じます」
今回はこの「強さ」が重要で、「お客様にも、最終的には風に奮い起こされて生きる力を感じてほしい」と語る。
今後も「主軸はドイツもの」というだけに、フランスものが多く、かつバロックから現代までを網羅した本公演は、稀有な名手の多彩な魅力に触れる貴重な機会となる。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年11月号より)
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.3 Wind
2019.11/29(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
http://www.kajimotomusic.com/