「高松宮殿下記念世界文化賞」にウィリアム・ケントリッジ、アンネ=ゾフィー・ムター、坂東玉三郎ら

 芸術文化の発展に寄与した世界の優れた芸術家を顕彰する「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)の第31回受賞者が9月17日の記者会見で発表された。
 絵画部門は美術家のウィリアム・ケントリッジ、音楽部門はヴァイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムター、演劇・映像部門は歌舞伎役者の坂東玉三郎が選ばれた。

左より:ウィリアム・ケントリッジ、アンネ=ゾフィー・ムター、坂東玉三郎

 ウィリアム・ケントリッジは、1955年南アフリカ・ヨハネスブルグ生まれ。木炭やパステルによる素描をコマ撮りした「動くドローイング」と呼ばれる独自のアニメーションに、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史や社会状況を反映さえ、1990年代から世界的な注目を集めてきた。
 エッチング、コラージュ、彫刻作品の制作のほか、演劇やオペラの演出、音楽・ダンス・動画などが重層的に融合する脱領域的な総合芸術など、舞台芸術家としても幅広く活動を続ける。なかでも第一次世界大戦時に欧州大陸で動員されたアフリカ出身兵士を題材とした舞台作品『ザ・ヘッド・アンド・ザ・ロード』(2018年)では高い評価を得た。
 近年、日本では、18年に上演された新国立劇場の《魔笛》で演出・美術を担当。今秋開催される「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2019」の公式プログラムでは、世界屈指のバリトン歌手マティアス・ゲルネの歌唱、ザルツブルグ音楽祭の芸術総監督としても手腕をふるうマルクス・ヒンターホイザーのピアノ、そしてケントリッジのドローイングが融合したシューベルト『冬の旅』が上演される。
 ケントリッジは今回の受賞にあたり、「私の活動の核となるのはドローイング。絵画部門での受賞は嬉しい」と語っているという。

ウィリアム・ケントリッジ
ヨハネスブルグのアトリエにて 2019年

 
 アンネ=ゾフィー・ムターは、1963年ドイツ・ラインフェルデン生まれ。13歳でヘルベルト・フォン・カラヤンに見いだされ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演で華麗なデビューを果たす。以後、カラヤン指揮ベルリン・フィルとモーツァルトやベートーヴェンなどの名作協奏曲を演奏。その後もズービン・メータや小澤征爾をはじめとする世界の名指揮者・演奏家と共演を重ねている。
 手掛けるレパートリーは幅広く、なかでも新ウィーン楽派やバルトークなど近現代の音楽を得意とし、クシシュトフ・ペンデレツキ、武満徹などの音楽に対する理解の広さでも知られる。行進音楽家の育成にも力を注ぎ、「アンネ=ゾフィー・ムター財団」を設立。積極的に慈善活動を行い、東日本大震災の被災者やシリア難民らを支援する公演も実施した。
 15歳で初レコーディング以来、世界各国のCD売上は1000万枚を超え、グラミー賞を4回受賞。多彩な音色、完璧な技巧、卓越した表現力、豊かな音楽性のすべてを兼ね備えて、「ヴァイオリンの女王」とも称される現代最高のヴァイオリニストの一人。

アンネ=ゾフィー・ムター
ミュンヘンにて 2019年

小澤征爾と サントリーホール30周年記念ガラ・コンサート 2016年
提供:サントリーホール

 音楽部門選考委員の堤剛は、以下のようにコメントした。
「押しも押されもせぬ世界最高のヴァイオリニストの一人。洗練され、卓越した演奏技術で、愛器ストラディヴァリウスを使用しての独特の音楽世界は、聴いている者を心から満たされた気持ちにさせ、音色で酔わせます。バッハやモーツァルト、べートーヴェンなど古典作品の演奏は完璧と言ってよく、また現代作品にも積極的に取り組み、常にヴァイオリンのレパートリーを拡げる努力をされている。演奏家としてのめざましい活動に加え、特筆すべきは彼女が大きな力を注いでいる教育、慈善活動。いかにムターさんが一人の人間としての使命を果たすことに情熱を燃やされているかの証でもあります。今回の受賞は、『大変な名誉』と、心から喜んでおられると聞いています。選考委員もこのような立派な方を選ぶことができ、大変嬉しく思っています」

堤 剛(音楽部門選考委員)

 坂東玉三郎は、1950年東京生まれ。1957年『寺子屋』の小太郎で、坂東喜の字を名乗って初舞台。14歳で五代目坂東玉三郎を襲名して以来、歌舞伎界を背負って立つ女形として活躍。気品あふれる姫役をはじめ、女形の最高峰とされる絢爛豪華な役で歌舞伎の奥深い魅力を体現し、舞踊家としても『京鹿子娘道成寺』『鷺娘』などで独自の美の世界を創造した。また、シェイクスピアの『オセロ』デズデモーナ、泉鏡花の『天守物語』富姫など、歌舞伎以外の舞台でも多くのヒロインを演じた。近年では、沖縄の伝統的な組踊や中国の昆劇にも女形として出演、その他、太鼓芸能集団「鼓童」の芸術監督も務め、『アマテラス』や『幽玄』などの作品を生み出すなどその活動は多岐にわたる。
 また、チェリストのヨーヨー・マ、バレエ振付家のモーリス・ベジャール、バレエ・ダンサーのミハイル・バリシニコフやジョルジュ・ドンなどとコラボレーションも行い、多くの画期的な作品に携わり、世界中の人々を魅了している。

シネマ歌舞伎 特別篇『幽玄』
2019年9月27日より全国の映画館で公開
©岡本隆史

 会見の場には坂東玉三郎さんも登壇、受賞の喜びを語った。
「歌舞伎の大先輩や、ベジャールさん、2017年の演劇・映像部門で受賞されたバリシニコフさんなど、これまで一緒に作品を作ってきた大先輩と同じ賞を受賞することは、非常に感慨深く思います。芸術作品の世界は学んでも学んでもきりがなく、これからもできる限り学ばせていただきたい。古いものを知っている方々、新しいことを臨んでる方々、何も知らない方々にもお喜びいただくものを創ることが演劇の使命だと思います。ですので、お稽古をして古きを知り、新しきものを開拓しながら、これからも最大限尽くしていきたいと思います」

そのほかの部門の受賞者は次の通り。
第31回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
◎彫刻部門:モナ・ハトゥム(イギリス)
◎建築部門:トッド・ウィリアムズ & ビリー・ツィン(アメリカ)

 また、同時に発表される第23回若手芸術家奨励制度の対象団体には、フィルハーモニー・ド・パリが運営する音楽教育プログラム「デモス」(フランス)が選ばれた。
 ベネゼエラの貧困地域の子どもたちにクラシック音楽の練習、演奏を通じて教育する音楽教育プログラム「エル・システマ」(1975年発足)の活動ににヒントを得て、2010年の発足。以来、クラシック音楽に触れる機会の少ないフランスの貧困地域や地方の子どもたちを対象に、無料で楽器を貸し出し、週4時間のレッスンを3年間行っている。15人構成のグループが7つあり、その105人がオーケストラを結成、各地方の音楽施設で年に一度、コンサートを開催している。15年以降、活動をフランス全土に拡げ、現在約4000名が参加、全仏に38のオーケストラを組織している。22年にはその数を60に増やす計画もされている。

リハーサル中の子供たち パリ郊外のマシー・オペラハウスにて 2019年

 

 「高松宮殿下記念世界文化賞」は、日本美術協会の創立100周年を記念し1988年に設立、前総裁高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」との遺志にもとづき、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に毎年授与される。
 授賞式典は、同協会総裁の常陸宮殿下、同妃殿下出席のもと、10月16日に東京・元赤坂の明治記念館で行われる。5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られる。

会見より 上段左から:松岡和子(演劇・映像部門選考委員)、渡辺 保(演劇・映像部門選考委員)、岩波 剛(演劇・映像部門選考委員)、峯村敏明(絵画/彫刻部門選考委員)、酒井忠康(絵画/彫刻部門選考委員)
下段左より:堤 剛(音楽部門選考委員)、渡辺祥子(演劇・映像部門選考委員)、坂東玉三郎、清原武彦(日本美術協会副会長)、高階秀爾(絵画/彫刻部門選考委員長)、藤森照信(建築部門選考委員)

高松宮殿下記念世界文化賞
http://www.praemiumimperiale.org/

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