現代を代表するヴィオレッタ、レベカへの期待が高まる
須賀敦子のエッセーでお馴染みの国境の港町トリエステには、ヴェルディの名を冠する名門歌劇場がある。実際、ヴェルディの二つのオペラ《イル・コルサーロ(海賊)》と《スティッフェーリオ》が、ここで初演されているのだ。もちろん、現在もヴェルディのオペラ上演に定評があるが、東京公演のキャスティングは、「事件」と言っても大げさでないほどすごい。《椿姫》のヒロインのヴィオレッタ役をマリナ・レベカが歌うのである。
彼女は約10年ぶりの来日で、以前もロッシーニのオペラやリサイタルで強い印象を残したが、いかんせんデビューから日が浅かった。この10年、声が成熟して練り上げられ、当初から群を抜いていた技巧にさらに磨きがかかり、いまや大歌手。最新のアリア集『SPIRITO』に収められた《ノルマ》以下のアリアの完成度も、他のソプラノを寄せつけない。特にヴィオレッタ役は、ウィーン国立歌劇場やパリ・オペラ座、今年はミラノ・スカラ座の年初の公演で歌い、再びスカラ座への出演が決まっている彼女の十八番。それが東京にいながらにして味わえるのだ。
脇を固めるのは、みずみずしい声と無類の音楽性でレベカと釣り合うラモン・ヴァルガスのアルフレードと、ボローニャ歌劇場公演《リゴレット》で名唱を聴かせたばかりのアルベルト・ガザーレのジェルモン。また、指揮のファブリツィオ・マリア・カルミナーティは作曲家の意図に忠実な緻密でダイナミックな指揮で知られ、声のことも熟知している。最高の《椿姫》にならない理由が見当たらない。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2019年10月号より)
2019.11/2(土)、11/4(月・休)各日16:00 東京文化会館
問:コンサート・ドアーズ03-3544-4577
http://www.concertdoors.com/
※全国公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。