バッハの豊かなアイディアと多様性が凝縮された6曲に挑む
作曲家、ピアニスト、楽譜校訂者、東京藝術大学教授として多岐にわたる活動を通じ、古典から現代までの幅広い音楽を伝え続ける野平一郎。9月13日の公演では、J.S.バッハのパルティータ全6曲を演奏する。なぜパルティータなのか。
「バッハは好きで、平均律クラヴィーア曲集やゴルトベルク変奏曲を演奏したり、インヴェンションの楽譜校訂を行ったりしてきましたが、舞曲や組曲をまとまった形で取り上げたことはなかったのです。フランス組曲やイギリス組曲も美しくて好きだけれど、音楽的にバラエティに富み、聴く人も弾く側も強く惹きつけられるのは、やはりパルティータではないでしょうか」
バッハがパルティータ全6曲を1冊にまとめて出版したのは1731年。46歳の頃のこと。それまで5年に分けて順次作曲・出版してきたものを「作品1」としてまとめたところに、野平は「バッハの覚悟」を感じ取る。
「1720年代前半のバッハの鍵盤作品の多くは、長男の教育や二度目の妻のための練習用にという意図を持って書かれていました。しかしパルティータに関しては、ライプツィヒの聖トーマス教会カントルとして朝から晩まで作曲をしなければいけない多忙な日々を送る中、特に必要に迫られていたわけでもないのに、自ら作曲・出版を行った。よほどの強い意志、ある種の覚悟がないとできなかったと思います」
それだけに、アルマンド-クーラント-サラバンド-ジーグという古典的な舞曲の組み合わせを土台としつつ、「バッハの中で内面化された、つまり、オリジナルの踊りから離れて、彼の血となり肉となった音楽へと発展している」という。
「例えば『メヌエット』ではなく『テンポ・ディ・ミヌエッタ』として、3拍子と2拍子を交代させてみたり、拍子を変えても特定の舞曲の特徴が伝えられるくらい、バッハは舞曲を自分のものにしていたのです。無伴奏チェロやヴァイオリンやフルート、さらには管弦楽のためにも舞曲による組曲を書き続けてきたバッハが、いわば集大成としてパルティータを書き上げたのではないでしょうか」
小ぶりで瀟洒なもの、フランス的に華やかなもの、不思議な余韻を残すもの…キャラクターの異なる全6曲を、野平は「これまでの私の音楽的経験から、無理なく自然に表現できるものとして提示したい」と語る。多様なプログラムを検討中の「Ten-year project」の第1弾。これまでの、そしてこれからの野平の音楽を聴き出すことのできる充実の一夜となりそうだ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2019年9月号より)
J.S.バッハ パルティータ全曲演奏会
2019.9/13(金)
【1部(第1番〜第3番)】18:30
【2部(第4番〜第6番)】19:50
浜離宮朝日ホール
問:ミリオンチケット03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp/