日本フィルが今秋より「ベートーヴェン・ツィクルス」開催

ピエタリ・インキネン
写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団

 今年4月の日本フィルハーモニー交響楽団の第6回ヨーロッパ・ツアーを成功に導いた首席指揮者のピエタリ・インキネンが、記者会見でツアーや10月から取り組む「ベートーヴェン・ツィクルス」について語った。
「今回のツアーで、私と日本フィルとは最も密度の濃い時間を過ごすことができ、私たちは成長しました。ハードなスケジュールにもかかわらず、メンバーは献身的で、毎日、違うホールと向き合い、チーム一丸となりました。同じプログラムを繰り返すので、いろいろ新しいことを試して、ツアー中にそれを発展させることもできました。そしてそのような共通体験が我々の結びつきを強めたのです。

 私の故郷であるフィンランドのコウヴォラでの演奏会は唯一無二の素晴らしい経験となりました。市民にとっても特別な機会でしたが、日本フィルにとってもフィンランドで演奏できたことはとても意味のあることでした。私と日本フィルとの数多い共演のなかでもハイライトの一つになりました。ウィーンの楽友協会大ホールでの演奏は、最初の一音から夢のような響きがしました。それは貴重で忘れられない体験です。あのときの響きは耳に残っているので、別の会場で演奏するときも、あのときのクオリティを維持したい、あのときのクオリティを思い出したい、と思うでしょう。帰国後、サントリーホールで同じプログラムの凱旋演奏会をひらいたのですが、オーケストラがいつものサントリーホールでこれまでと違う響きをしていたのに驚きました」

 ベートーヴェン生誕250周年を記念して取り組む「ベートーヴェン・ツィクルス」は、2019年10月から21年まで、9つのプログラムが予定されている。日本フィルが一人の指揮者でベートーヴェンの交響曲全曲演奏をするのは珍しく、定期演奏会では、1982年の渡邉曉雄とのツィクルス以来だという(定期演奏会以外では小林研一郎とも演奏している)。
「日本フィルは長い間ベートーヴェン・ツィクルスを行っていないので、ベートーヴェン生誕250周年がちょうど良い時期だと思って、一足早く今年10月から取り組むことにしました。ヨーロッパ・ツアーで得た信頼が、このベートーヴェン・ツィクルスでも発揮されることでしょう。そして、たとえば、ベートーヴェンの交響曲第5番はあんなに有名な曲であっても、一度も生で聴いたことのない人はたくさんいます。そういう新しい聴衆のためにも演奏しているという意識も持ちたいと思います」

 今回は、ベートーヴェンの交響曲にドヴォルザーク、マルティヌーといったチェコ音楽などが組み合わされる。
「私は(首席指揮者を兼務している)プラハ交響楽団でチェコ音楽のレパートリーに取り組み、それらを素晴らしいと思い、(もう一つ兼務する)ドイツ放送フィルでも録音を進めています。ですので、日本フィルでもドヴォルザークやマルティヌーの音楽を取り上げたいと思います。特にドヴォルザークでは、普段演奏されない序曲を紹介したいと思っています」
取材・文:山田治生

日本フィルハーモニー交響楽団
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