シュテファン・ヴラダー(ピアノ)

指揮経験を経て、ピアニストとして更なる高みへ

C)Gregor Titze

 ウィーンに生まれ、オーストリアを代表する音楽家として国際舞台で幅広い活動を展開しているシュテファン・ヴラダー。1985年にベートーヴェン国際ピアノ・コンクールで優勝の栄冠に輝いてからピアニストとして活躍していたが、やがて指揮者としても活動の場が増え、2008年にはウィーン室内管弦楽団の首席指揮者&芸術監督に就任した。

「実は、先ごろこのポジションを辞任することに決めました。10年間さまざまな作品を演奏してきましたが、そろそろピアニストとしての活動に絞る時期が来たと思っていますので。私は子どものころからオペラ、オーケストラ、室内楽などあらゆる音楽を聴いてきました。ウィーンは私の音楽観を育ててくれた土地で、ピアノの弾き振りをしたのも指揮を始めたのもごく自然なことです。すべて自己流なんですよ。ピアノはひとりですべてが完結しますが、指揮や弾き振りはオーケストラとのコミュニケーション、演奏のバランスが大切になります。共演者との演奏から学ぶことは多く、ピアノに戻ったときに音楽が肉厚になっていることに気づきます。特に歌手との共演は大切で、呼吸法から多くを学びます。私はピアノを弾くとき、すべての旋律をうたわせたいからです」

 今回の来日リサイタルでは、ハイドンのソナタ第62番、ベートーヴェンのソナタ第32番、シューベルトのソナタ第21番が組まれている。ハイドンのソナタはハイドンがエステルハージ家の楽団解散後、自由な音楽家となってから書いた最後期の作品。華麗で繊細で表情豊かである。ベートーヴェンのソナタは全32曲の最後のソナタにあたり、ベートーヴェンのピアノ音楽の集大成的な作品となっている。シューベルトのソナタも最後のソナタで、「ベートーヴェン以後、もっとも美しいソナタ」と称される馨しいリリシズムがみなぎる作品。まさに3人の作曲家の最後のソナタが時代を追って並べられている興味深い選曲である。

 ヴラダーはこうしたプログラムを組むときに大切にしているのは、「テーマ」だという。

「ピアノ・ソナタの場合、各曲の関連性、調性、内容、解釈などすべての面でひとつのテーマに基づいてプログラムを構成します。作品のなかに自分なりのストーリーを見出し、それを頭のなかで描きながら演奏を極めていくわけです。ソナタの場合もただ好きな作品を並べるのではなく、ある意義をもたせるのです」

 3曲は有機的な意味合いをもって奏される。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年7月号より)

シュテファン・ヴラダー ピアノ・リサイタル
2019.9/21(土)19:00 すみだトリフォニーホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp/
※9/22(日)葉山町福祉文化会館、9/26(木)ザ・シンフォニーホール(日本センチュリー響との共演)、9/28(土)東京文化会館(小)(日本モーツァルト協会 第611回例会)については上記ウェブサイトでご確認ください。