濱田芳通 (ダ・ヴィンチ音楽祭芸術監督)

ダ・ヴィンチがプロデュースした“オペラ”が500年の時を超えて蘇る!

 例年、首都圏でもエアポケット的にコンサートが少なくなる8月中旬だが、今年は川口で斬新な音楽祭が開催される。時を超えて称賛される叡智といってもいいレオナルド・ダ・ヴィンチ(今年が没後500年!)の名前を冠した、創造力にあふれる4日間。その名も「ダ・ヴィンチ音楽祭」だ。15〜16世紀、ルネサンスを生きたダ・ヴィンチだが、この音楽祭では、彼が聴いたかもしれない同時代の音楽、さらにはそれらの精神を現代へと蘇らせるような新作も含め、バラエティに富んだ音楽、そして音楽家や楽器を“発見”することができる。

 音楽祭の芸術監督を務めるのは、中世からバロックまで広範囲な音楽をレパートリーに、天正遣欧使節をはじめ数々の「歴史と音楽」をテーマにしたアプローチで斬新な企画を行ってきた、古楽アンサンブル「アントネッロ」のリーダー、濱田芳通。

「ダ・ヴィンチはリラ・ダ・ブラッチョという、ヴァイオリンのルーツといえる楽器の名手でした。また、宮廷行事等で演出や舞台美術なども手掛けるイベント屋さんのような職務も数多くこなしていました。有名な飛行機等のスケッチも劇のセットではないかという説があります。今回音楽祭のメインとして上演する《オルフェオ物語》も何度か上演された記録が残っていますが、彼は演出や演奏を含め、いろいろな仕事で才能を発揮しただろうと想像できるのです」

 その《オルフェオ物語》は、オペラ誕生とされる16世紀末の約100年前に上演された舞台だ。
「物語は、多くの作曲家が素材に使った有名なオルフェオとエウリディーチェのエピソードですが、ストーリーは、後世のオペラよりギリシャ神話の原典に近いものです」

 台本はメディチ家に仕えた詩人アンジェロ・ポリツィアーノの作。楽譜は残っていないため、当時の世俗歌曲やラウダ(民衆的宗教歌)などの旋律にテキストを当てはめたコントラファクトゥム(替え歌)や、定旋律に基づく即興演奏を交えた舞曲や器楽曲を交える等、当時も行われていたであろう手法を用い、音楽の復元を試みる。アントネッロの手にかかれば、当時へタイムトリップするような楽器の音色はもちろん、発見に満ちたものとなるだろう。

「当時は吟遊詩人のような歌い手が、リラ・ダ・ブラッチョを弾きながら即興で旋律を歌っていたと考えられ、いま聴いてもかなり新鮮な音楽だったのではないかと思います。今回は、日本にある数少ないリラ・ダ・ブラッチョも登場しますし、上演当時の雰囲気を体験していただけるでしょう」

 オルフェオ役の坂下忠弘(バリトン)ら歌手陣も楽しみだ。演出は中村敬一。
 その他にも、ミラノ在住の作曲家・杉山洋一のプロデュースで、ダ・ヴィンチ時代の音楽にインスパイアされた、邦楽器のための新作などが披露される公演や朴葵姫(ギター)のリサイタル、6つのグループが次々に登場する「古楽リレーコンサート」ほか、ユニークなプログラムが多々。4日間たっぷり“ダ・ヴィンチの時代と精神”に浸れる音楽祭で、音楽ファンのみならず歴史や美術・文学などのファンも知見を深めることができるだろう。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2019年7月号より)

ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1
2019.8/14(水)〜8/17(土) 川口総合文化センター・リリア
問:アントネッロ fest@anthonello.com
  リリア・チケットセンター048-254-9900
https://davinci.anthonello.com/