ヴィットリオ・グリゴーロ(テノール)

パヴァロッティから受け継いだ声は、上等な樽で熟成した上質なワインに

C)Alessandro Dobici

 ポスト三大テノールという表現は、もう古いかもしれないが、あえて該当者を挙げるなら、筆頭にくるのはヴィットリオ・グリゴーロを措いてほかにない。13歳のときに羊飼いの少年役で出演した《トスカ》で“共演”して以来、かのルチアーノ・パヴァロッティとの交流が続いたという。
「2007年9月、ワシントンで《ラ・ボエーム》にデビューするときは、亡くなる直前のルチアーノのレッスンを受け、ロドルフォ役を歌うための技術や秘密のすべてを伝授してもらいました」
 三大テノールの“長兄”パヴァロッティの、正真正銘の後継者なのである。実際、メトロポリタン歌劇場でリサイタルの開催が許されたイタリア人歌手は、パヴァロッティ以来二人目だが、そんな例を挙げずとも、グリゴーロがいま世界で最も重要なテノールの一人であることは疑いようがない。3年前のリサイタルでも、声を自在に操る力に驚嘆させられたが、その秘訣をあらためて尋ねてみた。
「私はずっとダニロ・リゴーザという一人のすぐれた先生に指導を仰ぐことができていて幸運です。いまも新しい役に挑むたびに指導を請い、私の新しい面を引き出すように努めています。デビュー済みの役でも、時が経過した分、成熟した表現が求められるので、やはり先生に導いてもらいます。でも、それだけではダメ。声の維持には休息も必要で、こうして最大限にケアしてきた結果、私の声とテクニックはいま、上等な樽で熟成した上質なワインのような状態にあります」
 もう一つグリゴーロが力説するのは、人生について、である。
「楽曲に楽譜以上の価値を注いでこそ、歌は輝きます。私は自分自身が経験した勝利や敗北、愛や苦悩といったすべてを歌に注いでいます。まさに人生の違いが歌の違いになって表れるのです」
 そんなグリゴーロが3年ぶりに来日し、オーケストラの伴奏つきでオペラ・アリアの数々を歌う。ドニゼッティにヴェルディ、さらにはグノーにマスネ、オッフェンバック。指揮はマルコ・ボエーミ。
「私はイタリアのベルカントのレパートリーから出発しましたが、フランスのロマンティックなオペラにも愛情を注いでいます。様式は大きく異なっても、それぞれが私の奥深くで同居しています。それに私は子どものころフランスの学校に通った経験もあるので、フランス・オペラを歌ううえで優位に立てますね」
 これらがまとめて、「上等な樽で熟成した」声で歌われるのを聴く機会など、またとないかもしれない。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2018年12月号より)

2018.12/6(木)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
2018.12/9(日)19:00 サントリーホール
問:アーチ・エンタテインメント03-5743-6660 
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