シルヴァン・カンブルラン(指揮)

コンビ9年の緻密かつ清新な集大成

Photo:M.Terashi/Tokyo MDE

精緻な彫琢で読響に新時代をもたらしたカンブルランは、常任指揮者として最後のシーズンに臨んでいる。4月には、マーラーの交響曲第9番などで、集大成に相応しい名演を展開。次なる9月の3プログラムへの期待はいやがうえにも膨らむ。
まず定期演奏会は、ペンデレツキ、シマノフスキ、ハース、ラヴェルの作品が並ぶ「20世紀プロ」。彼の本領であり、内容も示唆に富んでいる。
「シマノフスキとラヴェルは近しい関係にあり、音色的にも共通性を有しています。さらにペンデレツキとシマノフスキはポーランドの作曲家。ペンデレツキの『広島の犠牲者に捧げる哀歌』は第二次大戦の悲劇、ラヴェルの『ラ・ヴァルス』は第一次大戦の悲劇的要素とワルツの時代の終焉を表しています。存命の作曲家ゲオルク・ハースの『静物』は、ラヴェルのポートレイトとして書かれた曲で、現実にはない過去の存在を象徴する意味をもっています」
シマノフスキの作品は、諏訪内晶子がソロを弾くヴァイオリン協奏曲第1番。彼女とマエストロの共演も興味深い。
名曲シリーズは、モーツァルトとブルックナーの「オーストリア・プロ」。彼は読響とのブルックナーの交響曲第3、6、7番で、引き締まった構築による鮮烈な快演を聴かせてきた。
「本公演は伝統的かつ新たなレパートリー。読響はスクロヴァチェフスキの指揮でブルックナーをたびたび演奏してきましたが、私は異なるアプローチで臨み、最も知られた第4番『ロマンティック』でも、新たな可能性を提示したいと思っています」
モーツァルトの作品は、ピョートル・アンデルシェフスキがソロを弾くピアノ協奏曲第24番他。鋭敏な異才同士のコラボにも熱視線が注がれる。
土曜・日曜マチネーシリーズは、これまた交響曲第5、6番で既存の楽曲像を一新した「チャイコフスキー・プロ」。今回はさらに民族的な第4番がいかに表現されるか? 大いに楽しみだ。
「チャイコフスキーは、逆に読響から学んだレパートリー。彼はもちろん民族的な作曲家ですが、オーケストレーションはリムスキー=コルサコフよりモダンだと思っています。ですから大きな音で演奏するのではなく、細やかなポエジーを大事にしたい。特に弦のトレモロが大切な要素になります。また1曲目の『テンペスト』は、若い時に書かれた本当に美しい作品。日本ではあまり演奏されないので、あえて取り上げることにしました」
もう1曲は、2015年チャイコフスキー・コンクール チェロ部門の優勝者アンドレイ・イオニーツァがソロを弾く「ロココ風の主題による変奏曲」。彼のスケールの大きな名技も要注目だ。
読響シェフとしての来日は、この時を含めて残り2回。この多彩なプログラムがすべて必聴であるのは言うまでもない。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年6月号より)

シルヴァン・カンブルラン(指揮) 読売日本交響楽団
【土曜/日曜マチネーシリーズ】2018.9/15(土)、9/16(日)各日14:00 東京芸術劇場
【名曲シリーズ】2018.9/21(金)19:00 サントリーホール
【みなとみらいホリデー名曲シリーズ】2018.9/23(日・祝)14:00 横浜みなとみらいホール
【定期演奏会】2018.9/28(金)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp/