室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」が6月2日から6月17日まで開催される。今年もブルーローズ(小ホール)という親密な空間に、様々な室内楽の花が咲き競う。ここでは今年の特徴的な4つのコンサートをご紹介したい。
まずは、この音楽祭の中心的な企画とも言える、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏会【ベートーヴェン・サイクル】(6/7〜6/10)。今回はスペイン出身のカザルス弦楽四重奏団が登場する。1997年創立で、ロンドン国際弦楽四重奏コンクールなどで優勝し、世界の注目を集めた。結成20周年のシーズンに彼らがヨーロッパ主要都市で演奏してきたベートーヴェンを披露してくれる待望の企画だ。
様々な音楽学者などと対話しつつ、じっくりと練り上げられたプログラムを、4日間6回のコンサートで演奏するが、第1回は第11番「セリオーソ」と第13番「大フーガ付」の組み合わせにするなど、ユニークなカップリングが多い。また、第3回にはベートーヴェン自身が自作のピアノ・ソナタを編曲したヘ長調の弦楽四重奏曲が加わるのも興味深い。同クァルテットは、ベートーヴェンの全曲を弾く際に、初期の作品18とそれ以降の作品で第1ヴァイオリン奏者が交替するのが特徴的。それによってベートーヴェンの姿がどんな風に変化するのか。これまでの団体にはなかった“地中海的な”ベートーヴェンの世界が広がりそうだ。
フレッシュさ、そして世代を超えた共演という点で注目したいのが【アジアンサンブル@TOKYO】(6/3)。近年、世界的な演奏家が次々と登場する韓国から、イ・スビン(ヴァイオリン)、チョン・ウチャン(チェロ)、イム・ジュヒ(ピアノ)の若手3人を招き、このコンサートのプロデューサーでもある原田幸一郎(ヴァイオリン&指揮)、そして磯村和英(ヴィオラ)、サントリーホール室内楽アカデミーで研鑽を積む日本の若手演奏家も参加するコンサートだ。モーツァルト、ラヴェル、メンデルスゾーンの名作を取り上げる。イ・スビンやイム・ジュヒも国際的に活躍しており、その定評ある演奏を間近で体験できる貴重な機会となる。韓国の若手と日本の若手の真剣な対話にも注目したい。
気軽に室内楽を楽しみたいという方には【プレシャス1pm】がオススメ。午後1時からの60分間のコンサートだ。「Vol.1 室内楽の超達人たち」(6/6)には原田幸一郎ら室内楽アカデミーの講師陣が参加し、ドヴォルザークの「アメリカ」など室内楽の傑作ばかりを演奏する。「Vol.2 ドビュッシーと反好事家八分音符氏」と題したコンサート(6/8)では、今年、没後100年となるフランスの作曲家ドビュッシーのピアノ曲、声楽曲、チェロ・ソナタなどを、ドビュッシーの遺した言葉(朗読)と共に紹介する。児玉桃(ピアノ)、町英和(バリトン)、新倉瞳(チェロ)などの出演。ドビュッシーの知られざる作品を聴くチャンスだ。「Vol.3」は堤剛(チェロ)と小山実稚恵(ピアノ)による「親密な至極のデュオ」(6/13)。20世紀ロシアを代表するショスタコーヴィチとプロコフィエフのソナタを披露する濃厚な60分となる。いずれの回もチケット代金は2500円、ペア券(同一公演の指定席2枚)だと4000円という、かなりのお値打ち価格。
今年デビュー30周年を迎え、サントリーホールとも関わりの深い【竹澤恭子の室内楽】(6/13)にも足を運びたい。川本嘉子(ヴィオラ)、横坂源(チェロ)らと共演し、その円熟の技が発揮される。これも聴き逃したくないコンサートのひとつだ。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2018年6月号より)
2018.6/2(土)〜6/17(日)サントリーホール ブルーローズ(小)
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
http://suntory.jp/HALL/
※公演の詳細については上記ウェブサイトでご確認ください。