吉田恭子(ヴァイオリン)

作曲家が充実期に書いた宝物のような作品を

Photo:岩切 等

 毎回こだわりの選曲で話題を呼び、ファンにも楽しみな恒例の紀尾井ホールでのリサイタルも今年で17回目。
「リクエストに応えて弾くことも大切ですが、自分で企画するコンサートは準備に時間をかけて譜面や楽器と向き合う、音楽家として成長する大事な機会。師であるアーロン・ロザンドが90歳を過ぎてなお“最近こんな発見があったよ”と嬉しそうに話してくれるのを見ると、私もまだまだ勉強を続けなければ、と思うのです」
 前半はベートーヴェンとブラームス、それぞれのヴァイオリン・ソナタ第2番を用意。
「今回は、作曲家が依頼のしがらみや、人生の苦悩の中で書いた作品ではなく、純粋に音楽を紡ごうと肩の力を抜いて向き合った時に生まれ落ちた、宝物のような曲を皆さんに聴いてもらえたらと思って選曲しました。最初に選曲したのがブラームスの2番です。クララ・シューマンへの思慕の念を込めた1番や暗い雰囲気の3番と違い、多くの傑作を書き終えて満たされ、友人たちに囲まれた暮らしの中から生まれたこのソナタには、孤高の人ブラームスの優しくて柔らかな一面があらわれています。そしてウィーン時代のベートーヴェンが師のサリエリに献呈した2番にも、まだ気難しさのない無邪気で冒険好きな彼の人となりが見える。また、ベートーヴェンを先に弾くのは、古典派で始めたいという私の毎年のこだわりです」
 後半は国際色豊かに3人の作曲家が登場。それぞれ才能に恵まれ、生前の暮らしぶりも悪くなさそうな点が前半からの流れとも一致する。
「初めて取り上げるヒナステラはピアソラを育てたことでも知られるアルゼンチンの作曲家。『パンペアーナ』はアンデスの先住民たちの悲哀と躍動感に溢れた心揺さぶられる楽曲です。リサイタルに欠かせないパートナーで、今回も共演させていただくピアノの白石光隆さんに以前から薦められていた曲でもあります。そして、約16分にも及ぶ大曲で、今年こそはどうしても弾きたかったのがショーソンの『詩曲』。これほどヴァイオリンのエロティシズムの詰まった曲はありませんね。もともとロシアの文豪ツルゲーネフが書いたドロドロの愛憎劇に基づく交響詩として着想されたものですが、決して俗っぽくならずに品があるところが、フランスの裕福な家の生まれで絵画の巨匠たちとも交流があったというショーソンらしい。最後はもっとヴァイオリンのために曲を書いて欲しかったという想いを込めて(笑)、リストの技巧的な『ハンガリー狂詩曲第2番(ヴァイオリン編曲版)』で締め。沢山の弟子を輩出した、彼の人生も凄く充実していたはず。今回も掘り下げればいろいろと奥の深いプログラムなので、楽しんでいただけたら嬉しいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2018年2月号より)

2018.3/2(金)19:00 紀尾井ホール
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
http://www.kyokoyoshida.com/
他公演
2018.2/3(土)名古屋/宗次ホール(052-265-1718)