珠玉のホールに旬の歌手が勢ぞろい、 オペラの名曲の数々が高らかに歌われる
弦楽器がいまも木で作られるのは、低音から高音までバランスよく吸収され、残響音がほどよく残るという特性が、木にはあるからだ。コンサートホールも事情は変わらない。実はヨーロッパの名立たるホールの内装も、木目が装飾で隠されている場合もあるが、多くは木でつくられている。なかでも木の自然な風合いを内装に活かしたホールは、気持ちがなごむと同時に、日常では得がたい気持ちの高揚を感じさせてくれる。
いま、そんなホールの最右翼が、豊中市立文化芸術センター 大ホールである。来年1月、開館1周年を記念して開催される「オペラ・ガラ・コンサート」は、充実した内容と相まって、名店でしか食せない料理さながらに、このホールの美点を味わい尽くす絶好の機会だといえる。
ブロックが美しく積み上げられた瀟洒なホワイエから、客席数1300超のホールに足を踏み入れた瞬間が、まさに劇場体験だ。まだ木の香りが残るホールの壁は一面、浮き上がるように組み入れられた木材で覆われ、その美しさに心が高鳴る。使われているのは地元の大阪府で育った杉の集成材だそうだ。水平基調にあしらわれた木材はそのまま反響板まで伸び、客席と舞台の一体感が強調されているのも心憎い。
ただし、こうした視覚効果は、音響を追求した末の副次的な成果だ。肝心の音響は、単にすぐれているだけでなく、バランスがいい。ヨーロッパにくらべ、日本には響きすぎるホールも多い。とくに声楽の演奏で残響が気になることがある。その点、この大ホールに響いた声は、温もりがほどよく保たれたまま輪郭を失わず、オーケストラと理想的に重なり合うのだ。
この豊中市立文化芸術センターは、今回演奏する日本センチュリー交響楽団が4団体からなる指定管理者の一員として参加している。オーケストラがホールの運営に携わるのは珍しく、それだけにホールの持ち味の活かし方を知っている。指揮は飯守泰次郎。こちらは新国立劇場のオペラ芸術監督としてオペラを知り尽くしている。
そして、いま第一線で活躍する旬の歌手の数々。ヨーロッパを中心に華麗な足跡を残してきた中嶋彰子(ソプラノ)、最近までバイエルン国立歌劇場のソリストとして数々の名唱を聴かせてきた中村恵理(同)はいうにおよばない。深く豊かな声で新国立劇場をはじめ各地で活躍する福原寿美枝(アルト)。日本のオペラ界を牽引するテノールのひとり、望月哲也。ドイツでの経験が豊富で新国立劇場では常連の晴雅彦(バリトン)。主要な公演で数々の主役に起用され、飛ぶ鳥を落とす勢いの与那城敬(同)。役者はそろった。
それにしても、この日に歌われるアリアや重唱の数々を見て、よくぞ並べたものだと思う。モーツァルトのオペラ、フランス・オペラ、イタリア・オペラ、それぞれから計18曲! 名曲ばかりを集めた2枚組のアリア・重唱集を作るなら、たいてい同じ選曲になる。それほどぎっしり詰まったオペラのエッセンスを、このホールで、この演奏で堪能できる。聴き逃せない。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2017年12月号より)
2018.1/7(日)14:00 豊中市立文化芸術センター
問:豊中市立文化芸術センターチケットオフィス06-6864-5000
http://www.toyonaka-hall.jp/