福島章恭(指揮)

本場が認めた魂のモーツァルト

 2009年1月ウィーンのシュテファン大聖堂において、モーツァルトの「レクイエム」を指揮し、圧倒的成功を収めた福島章恭。彼は今年12月、さらに上のステージともいえる、モーツァルトの命日に同大聖堂で行われる「レクイエム」を託された。そこで11月、東京で壮行演奏会を開く。
 ライプツィヒ聖トーマス教会での「マタイ」など海外での活躍が光る彼だが、国内では、大阪フィルの合唱団をはじめ、「合唱の指導で全国を飛び歩く毎日」(加えて文筆活動も)。「国内でもきっちり評価を得られるような演奏活動をしたい」との思いも込めた本公演には強力な態勢で臨む。
「合唱は公募で集まった180名の大編成。4月から全国5ヵ所で練習を重ね、ウィーンのシュテファン大聖堂にも出演します。最近は大人数でレクイエムを歌う機会が減っていますが、私はワルターやベームのスタイルで育ってきましたし、それを求める人もいると思っています。オーケストラは、桐朋学園時代から友人の新日本フィル・ソロ・コンサートマスター、崔文洙さんを中心としたプロ楽団の奏者たち。ソロは、魂が震えるような声に惚れ込んでいる山下牧子さん、最近大活躍中の青山貴さん、そして山下さん推薦の平井香織さんと菅野敦さんに歌っていただきます」
 プログラムは、06年ウィーン楽友協会で行った演奏会『ブルーノ・ワルターに捧ぐ』が礎になっている。
「そこでは、ウィーン・フィルとのライヴ録音を夢中で聴いた私のワルターへのオマージュとして、モーツァルトの交響曲第40番とレクイエムを指揮しました。そのコンセプトが評価されてシュテファン大聖堂の公演に繋がった関係もありますし、40番は特別な音楽。大事な機会に演奏をと思っていたので今回取り上げることにしましたが、短調が続くので、レクイエムと関連性がある《魔笛》の序曲を最初に置きました」
 各曲への思いも深い。
「『レクイエム』は、モーツァルトが異次元に足を踏み入れた作品。あの世の扉を開けて1歩踏み出したような音楽にゾクゾクさせられます。未完成ですが、残された部分だけでも十分美しい。中でも〈レコルダーレ〉の四重唱は、この世ならぬ美しさ。以前演奏した際、冒頭のアルト・パートを山下さんが歌い出すと背中に電気が走りました。ちなみに私は、死の床のモーツァルトの口述に基づいた点に真実味を感じるジュスマイヤー版で演奏します。また《魔笛》は、長調でありながら哀しみや寂しさが滲む傑作。交響曲第40番は、形や枠が重要な『ジュピター』に比べると、生身の人間を出せるように感じます。そこで今回は、振幅の大きな思い切った表現をしようと思っています」
 「神聖な空気を感じる」という東京オペラシティも望んだ会場。本場が認めたモーツァルトを、ぜひ体感したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年11月号より)

モーツァルト:レクイエム ニ短調 KV626 特別演奏会
2017.11/16(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://www.millionconcert.co.jp/