ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

聴衆を包み込む雄大なブルックナーに出会う

ピエタリ・インキネン
C)堀田力丸
 昨年9月に日本フィルの首席指揮者に就任したインキネンは、最初のシーズンの定期演奏会で立派な成果をあげた。今年1月のブルックナーの交響曲第8番、4月のブラームス・ツィクルス、5月の《ラインの黄金》で密度の濃い演奏を展開。聴く者に確かな手応えを与えた。しかも彼は、2015年からプラハ響、今秋からザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルの首席指揮者など、次々と重要ポストに就任している。しからば当然、日本フィルでの2シーズン目にさらなる期待が寄せられる。
 最初の登場は11月、メインはブルックナーの交響曲第5番だ。インキネンの—特に独墺ものの—特徴は、ゆったりしたインテンポで、一つひとつの音やフレーズを緻密かつレガートに表出した、“悠然としてコクのある”音楽。これがブルックナーに適合するのは言うまでもない。実際彼は15年の7番、今年の8番という“本丸的”な交響曲で、その特徴を生かした名演を残している。今回の5番は、雄大かつ質朴な曲想、オルガン的な響き、対位法の妙、たびたびの全休止…等々、同作曲家の本質が最も表に出た作品。荘厳な大河にして、温かさや叙情性をも湛えたブルックナーを聴かせるインキネンが、本作をいかに表現し、日本フィルからいかなる響きを引き出すか? 大いに注目される。なお1曲目は、昨年亡くなったフィンランドの巨匠ラウタヴァーラの遺作「In the Beginning」のアジア初演。自国ものへの共感に充ちた演奏で同曲を知ることができるのも嬉しい。
 コンビ2年目のスタートは、見逃すことができない“勝負公演”だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年10月号より)

第695回 東京定期演奏会
2017.11/17(金)19:00、11/18(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp/