バッハ、現代曲、日本の芸術が時空を超えて交差する
ニューヨークを拠点に世界中で演奏活動を展開し、マリンバの新しい地平を切り拓いてきた名倉誠人。今年11月に神戸、名古屋、東京の3都市で開催する「現代によみがえる古典」と題されたリサイタルがすでに話題を呼んでいる。
“古典”とは先ず、彼の演奏家としてのキャリアの2本柱のひとつであるJ.S.バッハの音楽のこと。今回のリサイタルでも、自ら編曲した名コラール「キリストは甦りたまえり」などを披露。多くの人の心を掴むことだろう。
「偉大なバッハの音楽は、その作品が元々書かれた楽器以外で演奏したとしても揺るぎない、高貴で堅固な世界を持っています。演奏ではむしろ、マリンバによる“編曲”の魅力ではなく、バッハそのものの素晴らしさを伝えたい」
もう一方の柱とはマリンバという歴史的には浅い楽器の特性を強みに、新しいオリジナル作品を求めること。これまでにも各国の優れた現代作曲家たちとコラボを繰り広げてきた彼が、3人に委嘱した3作品を披露する。
「フランス印象派に心を預けたようなベンジャミン・ボイルの作品は和音が精妙でとても色彩豊か。昨年に日本初演したマリンバ協奏曲も素晴らしかったのですが、今回も『キリストは甦りたまえり』と、彼にこのコラールを基に書いてもらった変奏曲(世界初演)とを並べて聴いてもらう面白い趣向ですので、ご期待下さい」
デイヴィッド・ショーバー作品のテーマは、清少納言の「枕草子」をモティーフにした“日本の四季”。こちらも日英2ヵ国語で朗読(北村千絵)の後に、ヴァイブラフォーン(ヴィブラフォン)とフルート(前田綾子)による演奏が続くという何ともアメイジングな構成だ。
「数年前、ニューヨークのスーパーマーケットで偶然再会した彼に近況を訊ねたら、ギターとフルートのために『枕草子』を基に“春”と“冬”の曲を書いたと言うので、それじゃあギターをヴァイブラフォーンに換えて“四季”を完成させてよってお願いしたんです(笑)。日本の“古典文学”が外国人の目を通して現代によみがえる瞬間をお聴き逃しなく」
更には、バッハとレーン・ハーダーの「前奏曲とフーガ」を並置して比較を楽しむ趣向も。
「ハーダー作品は『変ホ短調』(2012年)と『変ニ長調』(16年)2曲を演奏。それぞれバーバー風、ショスタコーヴィチ風と、フーガのタイプは違いますが、どちらも超絶技巧の曲。『変ホ短調』は共同委嘱なのに他のマリンバ奏者の人たちは弾きたがらない(笑)」
なお神戸公演では、歌川広重と伊藤若冲に捧げた中村典子による大編成の作品(9人の打楽器奏者が参加)も披露。音楽・文学・絵画という3つの“古典”を制覇したい方はぜひこちらに。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2017年10月号より)
名倉誠人 マリンバ・リサイタル2017 現代によみがえる古典
2017.11/4(土)16:00 神戸新聞松方ホール(078-362-7191)
2017.11/6(月)18:45 名古屋/宗次ホール(052-265-1718)
2017.11/9(木)19:00 東京文化会館(小)(ムジカキアラ03-6431-8186)
http://www.makotonakura.com/