荘村清志(ギター)

自分の表現の幅の拡がりを実感できて楽しい

C)得能英司 CHROME
 日本クラシック・ギター界の最前線で活躍を続ける荘村清志。満70歳を迎える誕生日当日の10月13日、紀尾井ホールで記念リサイタルを開く。幕開けはまず、アルベニスやタルレガなど、荘村の“ルーツ”であるスペインの作品から。
「『アルハンブラ』などは何回弾いたか数えきれません。でも、20〜30代の演奏とは全然違ってきているのが自分でも分かります。あの頃は、楽譜に忠実に正確に弾くことを大事にしていたんですね。でも50歳頃から、もっと内面からこみ上げてくるような感じ方ができるようになってきました。楽譜は、作曲家が図式として書いただけのものだし、結局作曲家はそれしかやりようがない。演奏家は、その裏側にあるもの、作曲家が感じていたものを汲み取って表現しなければなりません」
 そんな変化を感じ始めたのとちょうど同じ頃、技術的な改良にも取り組んだ。
「45歳頃、指がうまく回らなくなったのです。ギターは音量が小さいので、大きな音を出さなければという意識が常に頭の片隅にあって、必要以上に力が入っていたんですね。若い頃はそれを馬力で強引に押し切っていたのが、だんだんそういかなくなってきたのでしょう。このままじゃダメだと思って、楽器を構えるフォームも弦を押さえる左手も、必要最小限の力で弾けるように変えました。そうやって柔らかく弾くと、ギターのサウンドがホールの中にふわーっと響いていることを感じられるようになった。そして紀尾井ホールのような音響の良いホールだと、その延長線上で、ホールで響いている音に包まれているのが自覚できるんです。楽器自体の響きと同じように。30年近くかかって分かってきました。今は表現の幅がどんどん拡がっているのを実感できるのが楽しみです」
 まさに“円熟”の境地。リサイタルではさらに、いま世界の熱視線を集めるカウンターテナー、藤木大地とともにヘンデルのアリアや武満のソングを。そして女優・中嶋朋子の朗読でカステルヌオーヴォ=テデスコ「プラテーロとわたし」(抜粋)を演奏する。
「藤木さんは昨年初共演して、ピアニッシモがきれいなのに感心しました。弱声をあんなにきれいにコントロールして聴かせる歌い手はそうそういません。中嶋さんとは今度が初めて。ふたを開けてみるのが楽しみです」
 2019年のデビュー50周年へ向けての『荘村清志スペシャル・プロジェクト』(全4回)も進行中。70歳の向こうへ。まさに“人生七十古来稀な”活躍ぶりが注目される。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年9月号より)

荘村清志 70歳誕生日記念リサイタル 語るギター 歌うギター
2017.10/13(金)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp/