萩原貴子(フルート)

デビュー25周年で聴かせる煌めきのサウンド

 日本音楽コンクールのフルート(当時8年に1回)部門で当時史上最年少にて優勝以来、数多の演奏活動を経て今年デビュー25周年。円熟の境地を迎えた萩原貴子が、3人の作曲家の作品に新しい生命を吹き込むソナタ集をリリースする。
「若い頃は、美空ひばりさんのナンバーや、名曲の技巧的なアレンジ集のような“人気曲”のみならず、フルートの可能性を追究するような作品へのチャレンジにも恵まれ、多くを発信することができました。その後、出産し、子育てする中で自分を見つめ直す機会を得ました。日本大学芸術学部の教授になり、大学で後進への指導に当たるうちに、今こそ、技術的にも精神的にも芸術の真髄に迫れる時期だと思い、演奏家としての原点に立ち返り、ソナタのレコーディングにチャレンジしたのです」
 ピアノは名手・斎藤雅広が担当。盟友同士の手加減なしの掛け合いも聴きどころのひとつ。
「時間と空間の中に思いっきり仕掛けてくる技に集中して、音での勝負です。音楽って本当に素晴らしいです。そこに精神的な喜び、感情が映し出され、このレコーディングは崇高な体験でした」
 アルバムの幕開けは、後にヴァイオリン・ソナタへと改作されたことでも知られるプロコフィエフのフルート・ソナタ。
「私が初めて興味を持ったフルートの曲。子ども時代、わが家では夕食時に祖父のコレクションだったレコードをかけるのが習慣で、『ランパル全集』の中に入っていたこの曲を聴くと、今でも当時の食卓の風景が目に浮かびます(笑)」
 一方で、フランクのソナタは有名なヴァイオリン・ソナタの編曲版。
「フルートはヴァイオリンと異なる性質を持つ楽器で、心の内からあふれでる思いを表現するためにかなりのアイディアが必要でした」
 ロマン派の詩人フーケの戯曲『ウンディーネ』に着想を得て書かれたライネッケのソナタも名高い。
「ピアノ・パートもかなり難しいのですが、長いフレーズを静かに吹ききるのは至難の業。この曲は師事したマイゼン先生も名盤を残しています。先生を懐かしく思い出したり、ウンディーネの気持ちになり、切なさと優しさ、また儚さを音色で表現しました」
 7月には浜松や東京で記念リサイタルも開催。アルバムからはプロコフィエフとライネッケ、加えてゴーベールやダマーズなどのスタンダード曲からなる魅力的なプログラムだ。一番大切にしてるのは、「人の心に響く!」ということで曲目やその日の“環境温度”に合わせて、ハンミッヒやメーニッヒといったアンティーク・フルートからベストを選択するというから注目だ。
「好きだからこそ、続けられ、やりたいことは沢山あります。凄いおばあさんがいるな! って(笑)思ってもらえるような演奏家を目指して今後も精進したいと思います」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2017年7月号から)

7/5(水)19:00 浜松/かじまちヤマハホール
問:浜松フルートクラブ(伊藤)090-2680-8092
7/14(金)19:00 東京文化会館(小)
問:アーツ・プラン03-3355-8227
http://flute-hagiwara.com/


CD
『萩原貴子 フルート・ソナタ集』
ナミ・レコード
WWCC-7840 ¥2500+税
6/25(日)発売