若き名手が奏でる“歌う”サクソフォンが興奮を呼ぶ
サクソフォン界のホープ上野耕平が第2弾のアルバム『Listen to…』を8月にリリース。9月には記念のリサイタルも開く。サクソフォンのためのオリジナル作品を集めたデビュー盤『アドルフに告ぐ』から一転、クラシック名曲による編曲作品集だ。
「“歌いたかった”のです、サクソフォンで。サクソフォンって、もしかして人間の声以上に“歌える”楽器だと思うので。でも有名なメロディだけを吹く、安易なイージーリスニングは絶対作りたくないと思いました」
安易でないどころか、聴き進むうちに目が点になるのが「熊蜂の飛行」(網守将平編曲)。原曲の旋律がそのまま使われているのは、たぶん2割に満たないのでは。フリージャズの即興のようなプレイが爆発する。
「変化球が一つ欲しかったので、とにかく“ヘンタイな熊蜂”(笑)にしてほしいと頼みました。速弾きのイメージのある曲ですが、そうではない『何じゃこりゃ!』を期待して。結果、想定以上のものになって難しかったですけど」
20分近い大作「カルメン・ファンタジー」も新たに生まれた(山中惇史編曲)。
「フルート用でもヴァイオリン用でもない、サクソフォンのための『カルメン・ファンタジー』が欲しいとずっと思ってました。これは超絶技巧を売りにせず、歌で聴かせる、音楽的に豊かな作品です。オペラ全編を観たぐらいの充実感があると思います。フルートやヴァイオリンの人がこれを演奏したいと言ってくれるのを待ってます(笑)」
曰く「超裏コンセプト」もあるのだそう。
「オーケストラ曲をやりたかったんです。サクソフォンはなかなかオケに入れてもらえないので、いいよ、じゃあ自分でやるからという(笑)。ムソルグスキーの『モスクワ川の夜明け』はそんなにメジャーではないと思いますけど、中学生の頃、知らない曲をインターネットで聴き漁っていた時に、メータとベルリン・フィルのヴァルトビューネの映像を見て、いつかやりたいと思っていた曲です」
1992年生まれ。今年24歳の若者の目は、音楽の新たな地平を見つめている。
「100年後に古典として取り組まれるような音楽を、われわれがこれから作っていかなければと考えています。もちろんベートーヴェンやモーツァルトは柱として大事ですが、同じことを繰り返しているだけでは、クラシック音楽は廃れる一方です。それに気づくことができたのは、新しい楽器で古典のレパートリーがないサクソフォン吹きだからこそ。表現の幅も広いし、サクソフォンでよかったなって、いつも思っています」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2016年9月号から)
9/29(木)19:00 王子ホール
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
http://uenokohei.com
CD
『Listen to…』
日本コロムビア
COCQ-85295
¥3000+税
8/24(水)発売