信頼関係がもたらす、精緻な抒情と躍動
東京フィルの今期の定期演奏会は、ポストをもった外国人指揮者が大半を受け持つ。そこに“割って入る”稀少な邦人指揮者の一人が尾高忠明だ。それは長年の信頼関係あってこそ。彼は1974年から91年まで同楽団の常任指揮者を務め、桂冠指揮者となった91年以降も定期や特別演奏会の常連となっている。この40余年の絆が一体感のある演奏を生み、特に昨年7月のマーラーの交響曲第9番は、聴く者に深い感動をもたらした。
彼は今期、6月の東京オペラシティ定期で、オール・ドヴォルザーク・プログラムを披露する。演目は、序曲「謝肉祭」、チェロ協奏曲、交響曲第8番。各ジャンルの代表作が並ぶと同時に、ボヘミアの民俗色が前面に出された、活力と哀愁が漲るプログラムだ。尾高は札響との海外レーベル録音第2弾にその後期交響曲を選ぶほどドヴォルザークが十八番。清冽な抒情性に充ちた、造型確かで精度の高い演奏は、民俗的要素を西洋様式の中に昇華させた同作曲家の本質を、明確に伝えてくれる。
ソリストは、チェロ界の若き注目株、岡本侑也。1994年に生まれ、東京芸大を経て、現在ドイツ・ミュンヘン音楽大学に留学中の彼は、2011年日本音楽コンクールで優勝後、第一線で演奏活動を展開。すでに都響、日本フィル、新日本フィル等と共演し、「大器を予感させる才能」と賞されている。彼は、しなやかなテクニックをもち、巧まずして雄弁な音楽を聴かせる稀有の実力者。同楽器の最高傑作でのフレッシュな表現に期待が集まる。
初夏の夕べに、名匠と俊英が名楽団と紡ぐ名旋律の数々を満喫しよう!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)
第102回 東京オペラシティ定期シリーズ
6/10(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
http://www.tpo.or.jp