身体から言葉が発せられるような作品にしたい
長年東京バレエ団のプリンシパルとして活躍、昨春退団した高岸直樹が、ストラヴィンスキー作曲『兵士の物語』の演出・振付に挑戦する。ダンサーとしても兵士役で出演。大きなステップアップになりそうだ。
石田組との初共演
この企画は、男性のみの弦楽アンサンブル「石田組」を率いるヴァイオリニストの石田泰尚がプロデュース。第1部のコンサートでは、プロコフィエフの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタニ長調」で石田と高岸が共演する。
第2部『兵士の物語』は第一次大戦後の1918年に作曲された音楽劇。帰還した兵士が悪魔に翻弄され、せっかく手に入れた幸福を失ってしまうという物語。ダンスを交えるなど多様なスタイルでの上演が可能で、日本ではこれまで、奥田瑛二、石丸幹二&首藤康之、中村恩恵、平山素子、アダム・クーパーなど、名だたるアーティストたちが挑んできた。
人生の物語を集約
「シンプルだが人生の物語が集約されていて、分かりやすいし普遍的。ストラヴィンスキーの音楽は、ジャズにも影響を受けたように、ジャズと同じようなリズムがあるので、それを前面に押し出していきたい。言わばクラシック音楽とジャズダンスのバトルですね。奇をてらわず言葉や台詞とマッチさせながら演出したい。
パイプオルガンと客席に囲まれたホールの構造も生かしたいですね。クラシックを基本にジャズの動きを取り入れたい。鳥居かほりさん(女優、ダンサー)が悪魔と王女の二役を演じるのも面白いと思います。髪を降ろすなどして表と裏を豹変させてみたい。置鮎龍太郎さんには朗読で参加してもらいます」
「語り、奏で、踊る」コラボレーション
「石田組」との共演にも期待が膨らむ。
「石田さんは、風貌も面白く、存在感がある。身体全体で音楽を奏で、まるで踊っているかのようなので、一瞬一瞬で様々なコミュニケーションが取れるのではないかと思います」
まさに「語り、奏で、踊る」コラボレーションの醍醐味が味わえそうだ。
東京バレエ団では29年間活躍。「やり終えたというのが実感で、いまは第二の人生に向かって晴れやかな気分です」と振り返る。現在は、高岸直樹ダンス・アトリエを主宰、土台を固めながらカンパニー結成のための充電中という。
作品は生き物
これまでシルヴィ・ギエム、ジョルジュ・ドン、モーリス・ベジャール、ジョン・ノイマイヤー等世界の一流アーティストたちと協働。1991年に『白鳥の湖』で共演したギエムについては「まず身体能力が凄い。精神的にも強い」と称賛するが、自身も、ベジャールの『ザ・カブキ』は約80回、『ボレロ』は約40回踊るなど記録的。特に前者については、「これがなかったらダンサーとしての成長はなかった。自分の成長のバロメーターでした」と語る。大好きな作品はジョン・クランコの『オネーギン』とノイマイヤーの『椿姫』。「オネーギンが踊れたのは夢のようでした」と目を輝かす。
「アダージョはノイマイヤー、構成はベジャールやジャズの名倉加代子先生から学んでいます。作品は生き物なので、日々前進させていきたい。身体から言葉が発せられるような、そんな作品が作れたらと思います」
健康法は「よく食べて飲み動くこと」。今後の活動に注目していきたい。
取材・文:渡辺真弓
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)
3/14(月)19:00 横浜みなとみらいホール
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
http://www.yaf.or.jp/mmh