
右:山田和樹 ©Yoshinori Tsuru
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の本拠地として、また伝統芸能など様々な芸術の発信地として知られる石川県立音楽堂が、開館25周年記念のスペシャルコンサートを開催する。今年は、OEKの初代音楽監督である岩城宏之の没後20年にもあたる。コンサートを牽引するのは、県立音楽堂芸術監督を務める野村萬斎と、国内外で八面六臂の活躍を続ける指揮者の山田和樹。幾重にも重なる“スペシャル”を実現するふたりに、コンサートへの意気込みを語ってもらった。
山田「OEKとの出会いは僕の音楽人生にとって大変な転機となるものでした。2006年の春に岩城さんから突然呼び出されて、〈第5回北陸新人登竜門コンサート〉で指揮しなさいと命じられたのです。岩城さんはその年の6月に亡くなられてしまったので、OEKにとっては“岩城さんが連れてきた最後の指揮者”という位置付けになるわけですね。そんな中で県立音楽堂の開館25周年記念公演に声をかけていただいたのですから、“岩城イズム”を伝承していく立場にある者としてはスペシャルなことをしないわけにはいきません」
コンサートは前半に岩城と深い親交があった山本直純の交響曲第45番「宿命」を、そして後半にショスタコーヴィチのオラトリオ「森のうた」の日本語版を取り上げる。岩城には、山本と青春を過ごした東京藝大時代の思い出を綴った『森のうた』というエッセイがあり、そこから山本作品を前半に選んだのだそう。萬斎は全体の演出を手がけ、かつ「森のうた」では朗読での出演も予定されている。
萬斎「山本直純さんの『宿命』は、ベートーヴェンの音楽のパロディになっています。ご本人が編曲にかけて“変曲”と名付けられたように、直純さんの遊び心が満載の曲です。まだ詳しいことはいえませんが、石川県独自の伝統芸能や、県民の参加などで祝祭的なものをつくりあげるつもりです。歌舞伎でいえば“天地会”、能狂言の世界でいえば“乱能”という、本来の専門とは違うものを演じる催しがありますが、そういうイメージです」
山田「ショスタコーヴィチの方は、楽章間に萬斎さんによる朗読を入れてもらおうと思っています。この作品は岩城さんや直純さんの学生時代には日本語訳で盛んに演奏されていたんですが、今ではほとんど演奏されなくなってしまいました。日本語ですからわかりやすく、たくさんの方に聴いていただきたいですね」
萬斎と山田は、自らが属する世界だけではなく積極的に「他者」と協働する芸術家という共通点がある。萬斎は狂言師だが、ドラマや映画、舞台などで俳優としても活躍。さらにクラシックの世界でいえば2023年に全国共同制作オペラで《こうもり》の演出を手がけたことも記憶に新しい。一方の山田は、オーケストラに限らず、合唱や吹奏楽などでも積極的に指揮をとるほか、ストラヴィンスキー「春の祭典」などで歌舞伎役者の尾上右近と共演を果たしてもいる。今回が初のコラボレーションとなるふたりは、お互いにどんな印象を持っているのだろうか。
山田「学生時代から憧れの存在で、今回ご一緒できるのが嬉しくてたまりません。萬斎さんにお願いすれば大丈夫だという絶対的な確信を持っているので、安心してチャレンジできます」
萬斎「異ジャンルとのコラボレーションは、ややもするとごった煮になってしまう危険性があります。共にやることで新しい化合物ができるという“確信”がないとダメだと思うんです。山田さんは非常に柔軟性があり、対話もたくさんできているので、今回は“確信”を持って参加できます」
記念公演のテーマは「未来へ」。ここには創設者・岩城宏之が掲げた「ここでしかできない壮大な実験を」という思いも反映されている。
山田「『森のうた』には公募で集まった児童合唱が登場しますが、子どもたちが樹を植えて森が広がっていく。森が未来へ繋がっていく、というのが大きなテーマであり、僕自身も岩城さんから受け継いだDNAを次世代に繋いでいきたいという思いを強く持っています」
萬斎「やはり、金沢から発信することの大切さを考えます。今回、音楽をメインに据えながら、伝統芸能や子どもたちの参加など色々なクロスオーバーを行うことで、地方のホールにも芸術的な総合力が育っているというモデルケースになれたら。それもまた、岩城さんの精神の表れではないかと思います」
取材・文:室田尚子
石川県立音楽堂開館25周年記念スペシャルコンサート「森のうた」
2026.10/22(木)19:00 石川県立音楽堂 コンサートホール
出演
山田和樹(指揮)
野村萬斎(演出/出演)
宮里直樹(テノール)
加藤宏隆(バス)
オーケストラ・アンサンブル金沢
東京混声合唱団
OEK合唱団
「森のうた」児童合唱団
曲目
ベートーヴェン(山本直純 編):交響曲第45番「宿命」
ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森のうた」(日本語版)
問 石川県立音楽堂チケットボックス076-232-8632
https://ongakudo.jp

室田尚子 Naoko Murota
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。

