
北村陽は若手チェリストの中でも筆頭格の実力者だ。一音で惹きつける音色、柔軟で高度なテクニック、視野の広い音楽性など、あらゆる点で秀でている。彼は、2023年のブラームス国際をはじめ様々なコンクールで第1位を獲得。そして26年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで入賞し、9月に記念リサイタルを行う。これがすこぶる興味深い内容ゆえに、北村自身の言葉を中心にご紹介しよう。
前半はエリザベートに関連したプログラム。
「エリザベートで弾いたナディア・ブーランジェとプーランクの作品にドビュッシーのソナタを加えました。どれもフランスもので、ドビュッシーは先の二人の源流ともいえる作曲家。また音楽に新たな扉を開いた彼の作品は、コンサートの幕開けにも相応しいと考えました」
中でもエリザベートで弾いた2曲への思いは強い。
「ブーランジェの『3つの小品』は、アンサンブルが繊細で音楽が自然に入ってくる素敵な曲、プーランクのソナタは、シリアスさと機知という作曲者が持つ両要素がバランスよく含まれた作品で、劇音楽やバレエ等の体を使った音楽に近いように感じます。後者はお客さんの反応をみて冗談を飛ばせるような部分も多いので、リラックスして聴いてもらえると思います」
後半は藤倉大とショスタコーヴィチの作品が並ぶ。
「藤倉さんの『Nobody’s Nothings』は、ある姉弟が、ナチスの台頭によって芸術的な活動を制限され、人々に忘れられてしまうという、“芸術の喪失”をテーマにした作品。昨年のヴェルビエ音楽祭でW.E.シュミット先生の演奏を聴いて魅了され、ぜひ弾いてみたいと思いました。またショスタコーヴィチにも迫害や政治的弾圧といった共通点があります。ただし今回弾くチェロ・ソナタは、明快で人間臭いロマンティックな音楽です」
前後半でテイストは違うものの、全体を通したテーマもあるという。
「それは“生死”にかかわる内容です。ドビュッシーもプーランクも、死に直面し、それと対峙した上で生がより輪郭を持って感じられるような作品。ブーランジェ作品も第1曲などは死神が取り憑いているような暗い側面を持ち、ショスタコーヴィチのソナタも『最後は自殺して終わるのではないか』と解釈されている面があるので、全体に『“生死を彷徨う”中で見えてくる』メッセージ性が強い曲ばかりです」
なお共演するピアノの秋元孝介も室内楽の名手。10月の「ジャパン・アーツ スペシャル・ガラ・コンサート」でのチェロ・アンサンブル、来年1月のネトピル指揮/プラハ響とのドヴォルザークのチェロ協奏曲と、その後も重要な公演が続く北村だが、まずは9月のリサイタルに期待したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2026年9月号より)
北村 陽 チェロ・リサイタル エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞記念
2026.9/23(水・祝)14:00 第一生命ホール
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp

柴田克彦 Katsuhiko Shibata
福岡県生まれ。音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。雑誌、コンサート・プログラム、Web、宣伝媒体、CDブックレットへの、取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に『山本直純と小澤征爾』(朝日新書)、 『1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集』(音楽之友社)。

