生命力あふれるマーラーの交響曲第9番の演奏だ。こう書くと、生への告別を歌うこの大曲のイメージと異なるかもしれない。だが事実そうなのだ。太田弦は九州交響楽団と共に、第1楽章の濃密なドラマを入念に描く。そこに死に瀕した人間の絶望はなく、今を生きる者が、死への怖れと生への希求が葛藤するこの未曽有の楽章を最大限の敬意と共に「生きる」、その力強さがある。諧謔と葛藤の中間2楽章を経て、再び死の影が差す終楽章へ。九響の渾身の熱演と共に、音楽は浄化へと向かう。マーラー個人のドラマが、今を生きる普遍の古典として鳴り響く。堀朋平氏の解説もまた、実に示唆に富み新鮮。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2026年9月号より)
【information】
CD『マーラー:交響曲第9番/太田弦&九響』
マーラー:交響曲第9番
太田弦(指揮)
九州交響楽団
収録:2026年2月、アクロス福岡シンフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00929 ¥3850(税込)

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。



