
取材・文:編集部
10月1日、都内でパシフィックフィルハーモニア東京の「新体制および、2027年度ラインナップ」記者発表会が開催され、実業家で同フィル会長の日野洋一、音楽監督の飯森範親、芸術顧問に就任する大谷康子、特別顧問となる伊藤裕太が登壇した。会見の冒頭で日野が挨拶に立ち、今後の方向性と新体制について説明した。
「楽団を支援してきたおよそ6年を通じて、『誰がパトロンで、誰のために演奏するのか』を考え続けてきました。当初は、チケットを購入して来場する聴衆を現代のパトロンと捉えていましたが、いまは地域や企業、寄付してくださる方々など社会全体が音楽を支える時代だと考えるように至りました。今後はさまざまな事情から音楽に触れる機会の少ない人たちにも届けていくことを楽団の使命とし、そのための新たな体制を築いてまいります。
新体制では、飯森さんには引き続き音楽監督として芸術面の中核を担ってもらいます。新たに芸術顧問に就任する大谷さんは、音楽監督のサポートに加え、“誰のために音楽を届けるのか”という問いから生まれた社会貢献活動『こども音楽食堂』への参画をお願いしています。
また、特別顧問に就任する伊藤裕太さんには、ビジネスの知見と音楽にも精通していることから、経営支援とアーティストとの関係づくりを期待しています」

芸術顧問に就く大谷康子は、次のように抱負を語った。
「私は2つのオーケストラで34年間活動してきました。大変なことも多いですが、大勢が一丸となって一つの方向を向いて演奏できた時の、爆発するような幸せはなかなか味わえるものではありません。そういう瞬間につながるよう、お手伝いできればと思っています。また、伝統を踏まえた上で新しいことに取り組む革新も大切です。そして『こども音楽食堂』を通して、音楽に触れる機会のない子どもたちにも、たくさん音楽を届けたいと思っています」

そして飯森から、2027年度の定期演奏会プログラムが発表された。2027年にベートーヴェンが没後200年を迎えることから、「2027年、ベートーヴェンとともに生きる」をコンセプトに、東京芸術劇場で行われる8回の定期演奏会が全曲ベートーヴェンでまとめられた。なぜ一年を通してベートーヴェンなのか。飯森は、作品そのものだけでなく、さまざまな指揮者との共演を通して楽団の表現の幅を広げることにも、この企画の大きな意味があると説明する。
「引き出しは多ければ多いほどいい。一年をかけてベートーヴェンと向き合うことで、いろいろな指揮者のカラーを楽譜を通して再現し、それぞれの経験を蓄えてほしい。今回は“新生PPT”という思いも込めて、もう一度ベートーヴェンを再発見しようという考えで、このような尖ったプログラムを構成しました」
タクトを執るのは飯森のほか、大友直人、大井駿、鈴木優人、ウクライナ出身のミコラ・ジャジューラの名前が並ぶ。
一方、質疑応答では、近年の楽団員の退団や雇用条件などをめぐる労使問題についても質問が及んだ。
日野は、楽団が大きな赤字を抱える中で、自らも多額の資金を投じて支援を続けてきたと説明。そのうえで、「再建しなければ楽団の存続が危ぶまれる」状況から、楽団員に協力を求めたことが団体交渉につながった。「それぞれに異なる価値観がある中で折り合いがつく部分、つかない部分があった」としつつ、楽団員については「お客様に音楽を聴いていただく時に最前面に立つ人であり、最も重要な役割を担っている。いかに素晴らしい演奏をしてもらうか、その環境を整えていくことが大切」と語った。
今回の会見で、たびたび語られた言葉「伝統と革新」、そして音楽を「社会」へ届けていくという新たな理念。その実現には、演奏を担う楽団員と運営側が同じ目標に向かって力を発揮できる環境づくりが欠かせないだろう。新体制のもと、楽団がどのように歩みを進め、掲げた理念をかたちにしていくのか、見守っていきたい。
パシフィックフィルハーモニア東京
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