
右:ラデク・バボラーク
さくらんぼの季節を迎えると、山形は急に慌ただしくなる。短期間で一斉に収穫するので、親戚知人一同手伝いに駆り出されるからだという。この時期に、山形交響楽団は東京と大阪へ遠征する。毎年恒例の「さくらんぼコンサート」だ。今年は、ラデク・バボラークと阪哲朗のダブル指揮者が登場、山響らしさをひときわ実感できる演奏会となる。
プログラムの前半は、山響ではミュージック・パートナーを務めるバボラークが指揮台に上がる。ホルン奏者として世界屈指の存在ながら指揮者としても活躍、山響とも長年にわたって関係を深めてきた。落ち着いたサウンドを持ち味とするこのオーケストラをキビキビと鳴らしてくれる指揮者でもある。
最初に演奏されるのは、この指揮者の故国を代表する作曲家ドヴォルザークの序曲「わが故郷」だ。ボヘミアの2つの民謡の旋律を主題としたソナタ形式の作品で、郷愁を感じさせると同時に、演奏会の冒頭を飾るにふさわしい華やかさも備える。
続くのは、モーツァルトの協奏交響曲変ホ長調。フルート、オーボエ、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲で、今回はバボラーク版による演奏となる。かつて彼が自らのアンサンブルのために編曲した版と同一ならば、小編成でソロ楽器がより室内楽的に絡み合う様子がつぶさにわかる音楽となるはず。山響の奏者による丁寧かつ密接なアンサンブルにも期待できよう。
プントのホルン協奏曲第5番では、今度はバボラークがホルン奏者として登場。指揮の阪哲朗との共演が実現する。プントは、モーツァルトやベートーヴェンも絶賛した伝説的なホルン奏者。この協奏曲は当時の演奏技術を凌駕する難曲としても知られていた。現代楽器ではなく、果敢にもナチュラル・ホルンでこの曲を吹くバボラーク。以前、モーツァルトの協奏曲をこのオーケストラの演奏会で聴いたときは、まるでフラウト・トラヴェルソのようにホルンを柔らかに歌わせていたことを思い出す。その妙技をたっぷりと味わいたい。
そして、最後はブラームスの交響曲第1番。常任指揮者に就いて7年目となる阪哲朗が、このオーケストラと培ってきた音楽がどういうものだったかを振り返るのにふさわしい曲ともいえる。ドイツやオーストリアの歌劇場で研鑽を積み、表情豊かで躍動的な音楽を聴かせる阪。そして、しっとりと旋律を受け渡しつつ、ノーブルなロマンティシズムを香り立たせる山響。国内ではピリオド奏法などにもいち早く対応したオーケストラでもあった。彼らがどのようなブラームスを聴かせてくれるのか。
これまで「さくらんぼコンサート」の東京公演は、東京オペラシティで行ってきた。今回はホール改装につき、サントリーホールに舞台を移す。赤坂のホールでの山響主催による公演は33年ぶりだという。きめ細やかな山響サウンドが、サントリーホールでどのように響くのかも楽しみだ。もちろん、抽選による山形のさくらんぼプレゼントも実施される。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2026年6月号より)
山形交響楽団特別演奏会 さくらんぼコンサート2026
東京公演
6/17(水)19:00 サントリーホール
大阪公演
6/18(木)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
問:山響チケットサービス 023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
https://bsky.app/profile/suzukiatsufmi.bsky.social
