川口成彦の、3種類のフォルテピアノを使い分けてのベートーヴェン小品集。印象深い曲から書くと、まず「幻想曲」。いきなり下行音階の衝撃で始まる。何が起こるかわからないベートーヴェンの即興の恐ろしさを実感する。グラーフの楽器の豊かな音を駆使する。スクエアピアノを使った「ポロネーズ」は、透明な響きが美しく優雅だ。ルバートによるウィットも楽しい。ロンド「失くした小銭への怒り」の後半では、延々と続く変奏と展開が愉快だ。「エリーゼのために」は、ベートーヴェンの1822年の草稿による新校訂版で、旋律や構成が少し異なる。楽器と奏法による違いを楽しめるアルバムだ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2026年7月号より)
【information】
CD『ベートーヴェンとの旅路/川口成彦』
ベートーヴェン:ロンド・ア・カプリッチョ「失くした小銭への怒り」、ピアノ・ソナタ WoO.51、ポロネーズ op.89、幻想曲 op.77、6つの歌より「祈り」(リスト編)、バガテル WoO.59「エリーゼのために」 他
川口成彦(フォルテピアノ)
レーベSignum/東京エムプラス
JSIGCD 1001 ¥3500(税込)


