2026年7月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2026年4月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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●【7月の注目オペラ・オーケストラ公演】(通常公演分)

 オペラ関係では、6月から続くベルリン州立歌劇場のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(ロト指揮)、ケルン歌劇場のロッシーニ「タンクレディ」(ペトルー指揮)、チューリヒ歌劇場のワーグナー「タンホイザー」(ソヒエフ指揮)、テアトロ・レアルのヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」(ネトレプコ出演)、英国ロイヤル・オペラのモーツァルト「フィガロの結婚」(シュレキーテ指揮)あたりが要注目公演。また、ロンドン響でワーグナー「トリスタンとイゾルデ」全曲の演奏会形式公演もある。

 オーケストラでは、ヴァイオリンのファウストと共演するポペルカ指揮のミュンヘン・フィル、いつもながらの多彩なプログラムで唸らせるラトル指揮バイエルン放送響といったミュンヘン勢が意気盛ん。バンベルク響を振るブロムシュテットの「生誕99歳記念演奏会」には頭が下がる。ツァグロゼク指揮シュトゥットガルト歌劇場管とロト指揮SWR響のブルックナーにも大いに興味をそそられる。

●【夏の音楽祭】(7月分)

〔Ⅰ〕オーストリア

 まずは「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「OUVERTURE SPIRITUELLE」シリーズの今年のテーマは「MISERERE」。ラテン語で「憐れみたまえ」の意で、音楽的にも旧約聖書・詩編第51編のテキストに基づいた合唱曲として一つの形を確立している。このテーマの下に、クルレンツィス指揮ユートピア、ムニエ指揮ヴォクス・ルミニス、サヴァール指揮ル・コンセール・デ・ナシオン等の演奏陣が連日のコンサートを彩る。また、ビュルギ指揮カンタンド・アドモンドの公演にはヴァイオリンのコパチンスカヤが加わったり、デュサパン作曲の「パッション」の演奏会形式上演があったりと、この音楽祭序盤ならではの充実したラインナップに圧倒される。一方、この期間のオペラでは、クルレンツィス指揮のビゼー「カルメン」に注目。カルメン役をグリゴリアン、ドン・ホセ役をテテルマンという、まさに新世代の歌手による「カルメン」が登場する。

 湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」。湖上ステージではヴェルディ「椿姫」が新演出。祝祭劇場の方は、ヤナーチェクの「ブロウチェク氏の旅行」という相変わらず玄人好みの選曲。「シュティリアルテ音楽祭」はかつてのアーノンクールの主宰する時代を経て、現在では古楽のサヴァールが重要な核として今年も活躍。「シューベルティアーデ」は6月の方に魅力的な室内アンサンブルが並ぶ。古楽祭の老舗「インスブルック古楽音楽祭」については8月の公演がメインのため、次号で改めてご紹介予定。

〔Ⅱ〕ドイツ

 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、6月から続くトビアス・クラッツァー演出のワーグナー「ワルキューレ」が音楽祭の大きな柱だが、それだけでなく、メータ指揮のプッチーニ「トゥーランドット」、J.プレガルディエンなどが出演するヘンデル「アルチーナ」、カウフマン、グリゴリアンやゲルハーヘル等による声楽リサイタル、都響との関係が深くなったルスティオーニの指揮するグノー「ファウスト」やウェーバー「魔弾の射手」など、豪華な演目の連続は、さすがにドイツ夏の定番音楽祭。ただ、この欄でも過去何回か触れたように、最終日の7月31日がワーグナーの「マイスタージンガー」で大団円を迎えることがなくなって久しいのは何だか寂しい思いもある。

 今年の「バイロイト音楽祭」は久々「リング」ツィクルスにティーレマンが登場。それもあってか、チケットの売れ行きはここ数年の低調傾向を一掃して入手が困難になっているという。その「リング」は、舞台演出を担う演出家の肩書きが「キュレーター」となっているが、これは、今回の演出が人工知能(AI)を駆使した革新的な手法で構築されるため、と説明されている。過去の膨大な舞台データなどを読み込んだAIの生成するイメージや材料をキュレーターが整理して上演に反映させるというのだが、果たしてどのような作品に「生成」されるのだろうか。もう一つの今年の大注目点は、本来ワーグナーがこの劇場での上演を想定していなかった「リエンツィ」が初めて演目に加わったこと。バイロイト音楽祭史上の大ニュースであることには間違いない。

 「ヘレン・キームゼー音楽祭」では、毎年出演する指揮のケント・ナガノはもちろんとして、今年はビオンディ指揮のエウローパ・ガランテ、エメリャニチェフ指揮のイル・ポモ・ドーロも出演する。5月からの開催となる「ルール・ピアノ・フェスティバル」は、7月にはシフ、藤田真央、辻井伸行、エマール、ソコロフらの人気ピアニストが連日のように登場。グリゴリー・ソコロフはこの他、「ラインガウ音楽祭」、「キッシンゲンの夏音楽祭」にも連続出演。その「ラインガウ音楽祭」ではピアノの角野隼斗が即興演奏も行う。「キッシンゲンの夏音楽祭」には、フルシャ指揮バンベルク響、ナガノ指揮ベルリン・ドイツ響、マルヴィッツ指揮ベルリン・コンツェルトハウス管、ラトル指揮バイエルン放送響などの公演に加え、メゾ・ソプラノのバルトリのリサイタルもある。この他、日本ではあまり知られていない「ルートヴィヒスブルク城音楽祭」も内容充実。ドイツ随一のロッシーニ音楽祭「ロッシーニ・イン・ヴィルバート」では、ロッシーニ以外にも、交友のあった同時代作曲家ウェッケルランの珍しいオペラの上演もある。

〔Ⅲ〕スイス

 例年通り「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」という山岳スキーリゾート地で行われる代表的2大音楽祭が核。前者では、メータ指揮のチューリヒ室内管、後者では、サロネンやラトル、ハーディングの指揮するヴェルビエ音楽祭管に加えて、キーシン、藤田真央、アルゲリッチなどによる魅力的な室内楽演奏会が続く。

〔Ⅳ〕イタリア

 「ラヴェンナ音楽祭」は5月からスタート。7月よりもむしろ6月に、主宰者とも言うべきリッカルド・ムーティや、ケント・ナガノ指揮のルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管、デュメストル=ル・ポエム・アルモニークなどによる注目公演が並ぶ。玄人好みの音楽祭として毎年注目の「マルティナ・フランカ音楽祭」は、今年もカゼッラやプロヴェンツァーレといった貴重な珍品オペラを上演してくれる。という一方で、ファビオ・ルイージ指揮のビゼー「カルメン」という名作オペラ上演もある。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの代表的な野外音楽祭で、ヴェルディ「アイーダ」を2つの異なった演出バージョンで上演するという企画もある。なお、これまたイタリア夏の野外音楽祭として名高い、ローマ歌劇場の「カラカラ浴場」公演は、次号以降で紹介予定。

〔Ⅵ〕フランス

 古楽系随一の夏の音楽祭「ボーヌ国際バロック・オペラ・フェスティバル」は、例によって、ほぼ全ての公演に◎印を付けるほどの注目公演揃い。今年も、ルセ=レ・タラン・リリク、ムニエ=ヴォクス・ルミニス、デュメストル=ル・ポエム・アルモニーク、アイム=ル・コンセール・ダストレといった有名どころに加えて、ベスティオン、プルースト、プランディ、メイエ、ファン・メヘレンなどこれまであまり見慣れなかった指揮者の名前が登場する。この古楽祭の世代替わりを如実に示している。同じく古楽系の「サント音楽祭」もドセ、ヘレヴェッヘ、エキルベイといった充実した指揮者陣。

 一方、「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、寵児クラウス・マケラの指揮するR.シュトラウス「影のない女」、ピション指揮のモーツァルト「レクイエム」(演出付)、カペラ・メディテラネア演奏のモーツァルト「魔笛」、ピアノのエマールによる興味深い選曲のリサイタル、ソプラノ歌手ヨンチェヴァによるバロック・アリア・リサイタル等々、注目公演の連続。また、コルマール音楽祭もアルティノグリュ指揮のモネ劇場響やフルシャ=バンベルク響、ピアノのソコロフなど充実した内容。

〔Ⅷ〕イギリス

 「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、意外なことに、初上演となるプッチーニの「トスカ」や、W.ケントリッジ、L.ペリーといった才人演出家の新演出になるモンテヴェルディ「オルフェオ」、R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」などが目玉公演。「ガージントン・オペラ」は日本ではまだまだ知名度が低いが、「グラインドボーン」に似た、広大な敷地でピクニックも楽しめる庭園型フェスティバル。メインのオーケストラはフィルハーモニア管だが、イングリッシュ・コンサートがピットに入るモンテヴェルディ「ウリッセの帰還」なども要注目。

〔Ⅹ〕東欧

 スメタナの聖地チェコのリトミシュルで開かれる「スメタナ・リトミシュル音楽祭」(会場のリトミシュル城は世界遺産)は観光的要素も含めて非常に魅力ある音楽祭。

(以下次号)   

(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)