
アンネ・ゾフィー・フォン・オッターといえば、1994年のクライバー指揮ウィーン国立歌劇場の《ばらの騎士》を真っ先に思い起こす人は多いだろう。ロココのウィーンそのものの舞台の中で、恋に猛進し悩み傷つく青年オクタヴィアンは、長らく彼女の代名詞だった。しかし、オッターの歌手としての魅力はそれだけではない。ドイツリートにおける比類なき表現力、母国スウェーデンをはじめとする北欧の歌曲のもつあたたかさ、フランスのオペレッタやシャンソンから香るエスプリ、そして現代曲やジャンルを超えた作品に果敢にチャレンジする情熱。どれをとっても「当代一流」という言葉にふさわしいクオリティで、しかも40年以上にわたって歌い続けてきた。今年70歳というが、彼女のような歌手は、世界中探してもどこにもいないだろう。
そんなオッター最後の来日ツアーは、クリスマス・ソングを歌うコンサートになった。もちろん彼女のことだ、ありきたりのクリスマス・コンサートになるはずがない。プログラムを眺めてみてもその工夫は明らかだ。街で流れるようなクリスマス・ソングとは一線を画す、しかし一曲一曲が珠玉のような音楽がジャンルを超えて集められている。特に、スウェーデン民謡を含む北欧の作品が複数入っているのが彼女らしい。共演はファビアン・フレドリクソンのギターとクリストフ・ベルナーのピアノ。信頼を寄せる二人と共に、世界一のメゾソプラノが東京の冬の一夜をその煌めく歌声で包み込む。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2025年12月号より)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾソプラノ) クリスマス・ソングズ
2025.12/8(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp
他公演
2025.12/4(木) 横浜/フィリアホール(045-982-9999)
12/6(土) 高崎芸術劇場 音楽ホール(027-321-3900)
12/10(水) 兵庫県立芸術文化センター(小)(0798-68-0255)

室田尚子 Naoko Murota
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。

