昨年末に引退した指揮者・井上道義による2021年の群響とのライブの模様。矢代秋雄の交響曲・第1楽章はすっきりと造形。矢代が留学したパリの、朝もや立ち込める街並みが浮かんでくるようだ。スケルツォ楽章、緩徐楽章とじっくりと進め、終楽章も旋律線を官能的に歌わせながら、複雑なオーケストレーションを豊穣な音の綾として描き出した。伊福部昭「日本狂詩曲」は、この作曲家を得意としてきた井上の真骨頂が味わえる。特に第2楽章「祭」がいい。悠然としたテンポをベースに強弱や押し引きを自在に利かせることで土俗的な活力が漲り、メロディが生気を帯びて輝き始めるのである。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年7月号より)
【information】
SACD『矢代秋雄:交響曲、伊福部昭:日本狂詩曲/井上道義&群響』
矢代秋雄:交響曲/伊福部昭:日本狂詩曲
井上道義(指揮)
群馬交響楽団
収録:2021年11月、高崎芸術劇場(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00871 ¥3850(税込)