吉田はベルリンを拠点に活躍するテノール歌手。アルバム全体に木下作品への愛情があふれており、特に表題作は歌うたびに泪ぐんでしまうと語るほど思い入れ深い。それも理解できる。まず詩のチョイスがいい。聴いて分かりやすくシンプルで美しい。木下は言葉の抑揚やリズムを活かしながら、その感情をメロディ、和音に巧みに変換する。ピアノがほのかに色付けする中、吉田はそれらを余計な力みやストレスを一切感じさせず柔らかくしなやかに歌う。この三つの相が共鳴し、心の深くに訴えかけてくる。途中に差し挟まれたフォーレ「無言歌集」に、日本歌曲を西洋音楽に接ぎ木する意気を感じた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年12月号より)
【information】
CD『いちばんすきなひとに―木下牧子 歌曲集/吉田志門&碇大知』
木下牧子:「抒情小曲集」より、「六つの浪漫」より、「愛する歌」より、「花のかず」より、「秋の瞳」より、「いちばんすきなひとに」、おんがく/フォーレ:無言歌集、消え去らぬ香り 他
吉田志門(テノール)
碇大知(ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-8040 ¥3300(税込)



