ロマン派の突出した天才たちの眩い輝きに隠れた、無数の星々の煌めきの一端を、川口成彦が見せてくれる。フランダース(フランドル)のピアノ曲集、第2集の本盤はヤン・ブロックスとエドガー・ティネルという1850年代生まれの二人の作品集。ブロックス「古い様式による組曲」のロマン派風に彩色された古典趣味、ティネル「歌」の感傷性、ソナタの力の入った構成と入り組んだ和声。いずれも歴史を動かした作品ではないが、かの地の音楽的日常の充実を実感させる。もちろんそれは、1857年製ブリュ—トナーから当時の空気感を立ち昇らせ、細部まで共感を込め生命を吹き込む川口の演奏のおかげだ。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年12月号より)
【information】
CD『別れ〜フランダース・ロマン派 ティネル&ブロックス ピアノ作品集/川口成彦』
エドガー・ティネル:歌、幻想小品集、ピアノ・ソナタ/ヤン・ブロックス:夜想曲、古い様式による組曲、間奏曲、高貴なワルツ、子守歌
川口成彦(ヒストリカルピアノ)
Et’cetera/東京エムプラス
JKTC-1840 ¥3500(税込)

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。



