創立100年を迎えるN響の変化を顕著に伝えるのは、こういう曲目かもしれない。楽しい曲を、底抜けに楽しく。洒落っ気やユーモアをたたえつつ、“N響らしく”ちょっと立派に。チェロをはじめ各ソロは格別だし、トゥッティも華やぎと勢いがあり、金管の響きも爽快。奏者自身が斜に構えず遊び心をもって臨んでいる。もちろん下野竜也の卓越した力量と“エンタメ力”あってこその快演なのは間違いない。その上で誤解を恐れずにいえば、オッフェンバックを明るく洒脱に演奏するN響は、近年までは想像しにくかった姿で、うれしい驚き。充実の愉悦感が、N響の新時代をも示す。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年12月号より)
【information】
SACD『スッペ:「軽騎兵」「詩人と農夫」序曲、オッフェンバック:「パリの喜び」抜粋/下野竜也&N響』
スッペ:喜歌劇《軽騎兵》序曲、喜歌劇《詩人と農夫》序曲/オッフェンバック(ロザンタール編):バレエ音楽「パリの喜び」より抜粋
下野竜也(指揮)
NHK交響楽団
辻本玲(チェロ)
収録:2025年2月、NHKホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00895 ¥3850(税込)

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。



