奨学金を得て、国内外で芸術を学び研鑽を積む若者は多い。その中でも、すでに有力な国際コンクールで優勝や入賞という実績を持つトップレベルのアーティストが数多く存在するのが、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生たちだ。彼らの専門分野は多岐にわたる。鍵盤楽器、弦楽器、管楽器、声楽、作曲、音楽学…。今年もこれらの分野の30名が一堂に会し、夏の京都と東京を舞台に計4回の公演が開催される。2013年から始まったローム ミュージック ファンデーションのスカラシップ コンサートである。
近年は全公演が完売するほどの人気なのだが、今年からより多くの若者にライブで演奏に接してもらいたいと、U30(30歳以下)チケットを新設し、価格は何と各回1,000円! 一般のチケットだって2,000円なのだが、こちらには当日1ドリンクサービスが付くようになった。若い世代が仲間とともにライブのコンサートに足を運び、休憩時もコンサート空間の楽しみを体感できるとなれば、これは若い聴き手を育ててくれる場とも言えよう。

特筆すべきは、豪華演奏者と超リーズナブルなチケットだけではない。このコンサートは奨学生たちの限りなき自主性によって成り立っているのが大きな特長。通常なら主催者が会場など大部分を手配して、アーティストは出演を承諾し公演当日を迎えるが、スカラシップ コンサートでは奨学生が主体的に考えて行動する。具体的には、学びの成果を披露する作品を自身で選曲し、ソロかアンサンブルか、出演形式も自分で考える。共演者は現役奨学生を中心に自由に組むことが可能。また、リハーサル会場の手配やコンサートのPR活動、共演メンバーとのやり取りも奨学生自らが行う、という仕組みなのだ。
演奏技術と同時に、マネジメントやコミュニケーションの力も身につけて、優れた社会人としての音楽家に育ってもらいたいというローム ミュージック ファンデーションの願いが濃厚に反映されているわけ。一方で、これは、聴き手からすると実に多様なプログラムを楽しめるコンサートを意味する。誰もが知る有名曲あり、新作の世界初演あり、しかも出演者の組み合わせの妙や選曲も新鮮。ちなみに今回のコンサートのテーマは「はじまり」で、これに沿って4回のコンサートが全て異なる構成で展開する。

内容のごく一部を紹介すると、7月26日の京都公演(Vol.52)では、2022年ロン=ティボー国際コンクール入賞のピアニスト重森光太郎がソロでリスト「巡礼の年」から〈ダンテを読んで〉を演奏するほか、ナポリで研鑽を積むメゾソプラノ金子紗弓とオペラ・アリアも共演する。8月3日の東京公演(Vol.53)には、第87回日本音楽コンクール第1位に輝き、現在エリザベート王妃音楽院に学ぶヴァイオリン荒井里桜がシューマンのピアノ三重奏曲第3番に参加するほか、クラシックギターの山田唯雄、クラリネットの瀬千恵美(室元拓人の作品を世界初演。8月23日の京都公演では同作品を亀居優斗が披露)など多彩な演奏者が登場。8月23日京都公演(Vol.54)は、23年ブラームス国際コンクール優勝のチェロ北村陽、いまや凛々しい青年となったピアノの牛田智大と荒井の共演、オルガンの東方理紗のバッハも聴けるプログラム。最後の8月30日東京公演(Vol.55)では、クラリネット(亀居)とサクソフォン(山本航司)の二重奏、ピアノ(安並貴史)とテューバ(白井翼)によるプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」(抜粋)などスカラシップ コンサートならではの聴きものがいっぱい。
この夏、若きアーティストの瑞々しい感性が弾ける!
文:朝岡 聡
(ぶらあぼ2025年6月号より)
ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート Vol.52〜55
【Vol.52】2025.7/26(土)【Vol.54】8/23(土) 各日14:30 京都府立府民ホール アルティ
【Vol.53】2025.8/3(日)【Vol.55】8/30(土) 各日15:30 浜離宮朝日ホール
問:otonowa 075-252-8255(京都) 1002(イチマルマルニ) 03-3264-0244(東京)
https://micro.rohm.com/jp/rmf/lp/scholarship_2025/
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。