
ダニエル・オッテンザマー ©Andrej Grilc
オッテンザマーは父と兄がウィーン・フィル、弟がベルリン・フィルの首席というクラリネットの名手。ウィーンの音楽一家の粋だ。ダニエル・オッテンザマー(お兄さん)と、チェロのシュテファン・コンツ、ピアノのクリストフ・トラクスラーの3人は幼馴染で、いかにも仲がよさそう。「クラリネット・トリオ・アンソロジー」は古今東西の曲に取り組む彼らのプロジェクトで、すでに多種多彩な27曲をCD7枚にまとめている。パンデミックのさなかに、気心の知れた3人で音楽のエッセンスを深めようとしたのがきっかけらしい。
大家の名作はもちろん、聴き馴れないレパートリーも披露されるが、すべてが器用で、スタイリッシュに表現されるので、こちらは滑らかな各々の風味に舌鼓を打っていればいい。彼らの演奏は、古典派でもロマン派でも20世紀でも明快で軽妙、“enjoy”とステージから呼びかける言葉のとおりだ。ちょうど2年前の王子ホールの夜はそうだった。
この初夏のコースは、フォーレとロータ、タネジとベートーヴェンという多様なプログラムだが、料理人の腕はぴったりと揃って達者である。フォーレは3つの素材を融け合わせ、ニーノ・ロータはそれぞれの風味をくっきり引き立てる。タネジの「コルテージュ・フォー・クリス」は、1997年に書かれた親友への追憶。ベートーヴェンは初期の人気作七重奏曲を自身が編曲した版。フランス、イタリア、イギリス、ドイツ(というかウィーン)を巡り、19世紀への変わりめから20世紀までを旅する夏の夜の夢となる。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2025年6月号より)
ダニエル・オッテンザマー クラリネット・トリオ・アンソロジー
2025.7/4(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
https://www.ojihall.jp
他公演
2025.6/26(木) 兵庫県立芸術文化センター(小)(0798-68-0255)
6/27(金) 神奈川県立音楽堂(チケットかながわ0570-015-415)
6/28(土) 杉並公会堂(03-5347-4450)
6/29(日) 京都/青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)
※プログラムは公演により異なります。