2027年の没後200年に向け全交響曲を演奏

新体制で勢いに乗る関西フィル
先日、フェスティバルホールで行われた11回目の「大阪4オケ」。年に一度、在阪の4つのオーケストラ(大阪フィル、関西フィル、大阪響、日本センチュリー響)が一堂に会し、演奏力やアンサンブル、個性を競う一大イベントだが、そこで見せた関西フィルのパフォーマンスが、この日一番の話題を呼んだ。首席客演指揮者 鈴木優人の指揮の下、バーンスタイン作曲『ウェスト・サイド・ストーリー』から「シンフォニック・ダンス」を取り上げ、〈マンボ〉では全員が立って踊りながら演奏したのだ。曲冒頭のフィンガースナップや、「マンボ!」のシャウトはお約束だが、全員の“ダンス演奏”には驚いた。「大阪4オケ」初参加の鈴木がこのコンサートを盛り上げ、関西フィルを印象付けようと仕掛けたアイディアだとは思うが、この少々ハードルの高い提案をオーケストラが受け入れ、全員が嬉々として行ったところに両者の信頼関係と、現在の関西フィルのチャレンジングな姿勢が垣間見えた。

そんな鈴木と関西フィルが2025-26シーズンからの新企画として「鈴木優人のベートーヴェン・ヒストリー」を実施する。
この3月には記者会見が行われ、鈴木と常務理事・楽団長の大野英人が出席した。
大野によると、年3度の「住友生命いずみホールシリーズ」は、これまで音楽監督のオーギュスタン・デュメイが主に担当していたが、名誉指揮者就任にともない、鈴木に依頼することになったという。
「2027年のベートーヴェン没後200年に向けて、3年がかりで交響曲全9曲を番号順に取り上げ、協奏曲や序曲とともに彼の生涯を辿ろうということに。バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の首席指揮者を務め、古楽に造詣の深い鈴木さんらしく、ピアノ協奏曲でフォルテピアノを用いるのがいちばんの聴きどころだと思います」
上原彩子、川口成彦、阪田知樹
名ピアニストたちがフォルテピアノで協奏曲に挑む
このシリーズでは、ピアノ協奏曲でフォルテピアノが用いられるなど、鈴木のこだわりが反映されており、6月の第1回では、ノイペルト社製のシュタインモデル(1989年作)が使用される。
「ベートーヴェンの作品は、交響曲に限らずオーケストラにとって基本中の基本。私も関西フィルも幾度となく取り組んできましたが、改めて勉強できる良い機会です。会場は1990年にBCJが最初の演奏会を開いた住友生命いずみホール。定期演奏会を行う、座席数約1700のザ・シンフォニーホールとは違い、約800席のいずみホールは、舞台上で聴いているかのような、音楽の細部まで感じ取れる音響が魅力のホールです。交響曲の1番とピアノ協奏曲の1番という風に第5回までは進みますが、コンチェルトはモダンピアノではなくフォルテピアノを使用します。今シーズン演奏するのは第1番が上原彩子さん、第2番が川口成彦さん、第3番は阪田知樹さんで、ご存知のように上原さんと阪田さんはモダンピアノの第一人者。しかし、お二人ともフォルテピアノに関心をお持ちのようなので、どんな演奏になるのか今から楽しみです」

モダンオーケストラとフォルテピアノの組み合わせは初めての経験だと話す鈴木。フォルテピアノの演奏からは、楽器の進化の過程が感じられるのだそうだ。
「フォルテピアノの鍵盤の数は、モーツァルトの時代は5オクターヴ、ベートーヴェンなら5オクターヴ半から6オクターヴ、ブラームスなら6オクターヴ半という具合に、楽器の開発と曲の創作が連動してきました。その曲が書かれた時代の楽器を使用すると、鍵盤の端から端までを使い切ることになり、当時の楽器のキャパシティの限界を聴くことができます。この“限界音”から楽器の進化の過程が感じられるのです」
古楽のスペシャリスト・鈴木のトークも必聴
6月に行われる記念すべき第1回目の演奏会は「個人的に思い入れの強いプログラム」だという。
「序曲『レオノーレ』第3番は、中学2年の時に生まれて初めて指揮した曲です。交響曲第1番はその翌年、自分でホールを借りてイチから演奏会を企画した忘れられない曲。この時に指揮をお願いしたのが桐朋学園時代の下野竜也さん。薄謝で引き受けていただきました。そういう意味で、このプログラムのテーマは『初志』ですね(笑)。ピアノ協奏曲第1番は演奏機会が少なく技術的にも難しい曲ですが、上原彩子さんなら大丈夫。得意のロシアもので共演していますが、今回ベートーヴェンでご一緒できるのが嬉しいです。
オーケストラの楽器に関してはピリオド楽器にこだわりませんが、シリーズが進む中で、皆さんが当時の楽器に持ち替えてみようと思われるなら素敵なことだと思います。
皆さま、私たちと一緒にベートーヴェンの歴史を辿ってみませんか。毎回プレトークも行うので、演奏と解説を交え理解が深まるはずです!」

関西フィルは2025年度から藤岡幸夫が総監督・首席指揮者に就任し、音楽面はもちろん、楽団運営にも力を入れるという。首席客演指揮者の鈴木優人に加え、新たにアーティスティック・パートナーとしてリオ・クオクマンを迎え、指揮者陣に若いパワーが吹き込まれた。前音楽監督のデュメイは名誉指揮者に就任し、引き続き定期演奏会にも登場するというから心強い。4月の末に行われた藤岡指揮によるシーズン最初の定期演奏会はソールドアウト。「大阪4オケ2025」のパフォーマンスは聴衆に大受け。そして、この記事の校了間際には、“炎のコバケン”小林研一郎指揮の5月定期演奏会が、満員札止めの上大変な盛り上げを見せたという情報も飛び込んできた。好調な滑り出しをみせる今年の関西フィルの活動から目が離せない。
文:磯島浩彰
関西フィルハーモニー管弦楽団
住友生命いずみホールシリーズVol.60
鈴木優人のベートーヴェン・ヒストリー1
2025.6/7(土)15:00 大阪/住友生命いずみホール
出演
指揮&お話:鈴木優人(関西フィル首席客演指揮者)
フォルテピアノ:上原彩子
プログラム
ベートーヴェン:
序曲「レオノーレ」第3番 op.72b
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 op.15
交響曲第1番 ハ長調 op.21
問:関西フィルハーモニー管弦楽団06-6115-9911
http://www.kansaiphil.jp