ドイツ在住のコンポーザー・ピアニスト小倉美春が導く新たな音楽の地平

©Sho Kubota

 バッハとコンテンポラリーを組み合わせてプログラミングするB→Cシリーズは、出演自体が “一流演奏家”として認知される登竜門。6月10日にはピアニストの小倉美春が登場するが、彼女の場合、コンポーザー・ピアニストという括りで理解するのがいいだろう。

 桐朋学園大学でピアノと作曲を学んだ後、昨年までフランクフルト音楽舞台芸術大学に在籍、現在も同地を拠点に活動する。創造の最先端にピアニストとして参画するとともに、その感性を作曲にも生かし多数の委嘱を受け旺盛な作曲活動を展開している。行動力・実行力を兼ね備えた頼もしい若手だ。

 今回のプログラムは、そんな小倉が活動の中で出会った作曲家たちを最初に並べ、小倉自身の新作を経て、バッハ、そして現代の古典とも言うべきノーノへとつなぐ。どれもピアノという歴史的に完成された楽器に挑み新しさを追求した、後世に残すべき作品だと言う。

 ハーモニクス(倍音)やクラスター(密集和音)など特殊奏法を用いた作品、オルゴール音やキーボード、さらには演奏者自身の声を使った作品、バスクラリネット(片山貴裕)、チェロ(山澤慧)、エレクトロニクス(有馬純寿)とのアンサンブルなど、幅広いラインナップが並ぶ。

 自作初演では「B→C」を音名として組み込み、ピアノという楽器ならではの音のうごめきに着目する。またノーノの「…苦悩に満ちながらも晴朗な波…」ではポリーニの録音と“共演”。現代のピアノへの多彩なアプローチの中で、バッハがどう聴こえるのかにも注目したい。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年6月号より)

東京オペラシティ B→C 小倉美春(ピアノ)
2025.6/10(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp