ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.34
富山県立富山商業高等学校 吹奏楽部

全国大会銀賞が続く「北陸の横綱」
頂点を目指すリーダー2人の友情物語!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 富山県立富山商業高校吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクールに34回の出場を誇り、「北陸の横綱」と称される名門バンドだ。

 もちろん、34回出場は北陸支部で第1位の記録である。また、演奏と行進・パフォーマンスをおこなうマーチングの分野でも、全日本マーチングコンテスト(全国大会)に昨年まで6大会連続、通算11回出場している。

 だが、全日本吹奏楽コンクールでは1989年(平成元年)を最後に金賞受賞はない。ここ最近も、コンクールとマーチングコンテストの両方で全国大会出場を果たしているものの、銀賞が続く。

 自身も富山商業の卒業生である顧問・小西衛(まもる)先生はこう語る。

「北陸代表に選んでいただいているからには、北陸の学校の気持ちを背負っているつもりなので、やはり全国大会で金賞に到達したい。ただ、私がもっとも強く望むのは、金賞受賞よりも部員たちが輝きを放ってくれることです」

小西衛先生

 今年度、富山商業の部長を務めるのはフルート担当の西村詩(うた)、副部長はトランペット担当の永田花奈子(はなこ)。いずれも3年生の女子だ。

 詩は吹奏楽が盛んな砺波(となみ)市の中学校出身だが、県大会止まりの少人数バンドだったという。

「同じ砺波市の庄西中学校や隣の南砺(なんと)市の福野中学校が全国大会に出ているのが心から羨ましかったです。同じ中学生なのに、立つ舞台が全然違うし、自分たちにはできない経験もしていて……」

 詩は石川県金沢市で開催された北陸吹奏楽コンクールを聴きにいき、富山商業の迫力があって安定した演奏に魅了された。そして、「私も富商(とみしょう)(富山商業の略)の人たちと一緒に演奏したい!」と進学を決めた。

左より:部長の西村詩さん、副部長の永田花奈子さん

 そんな詩に、入学して最初に声をかけてきたのが花奈子だった。花奈子は当時を振り返りながらこう語る。

「私は魚津市出身で、中学時代は全国大会とは縁がありませんでした。ですが、もっとうまくなりたい、もっと上の大会を目指したいと考えて富商に進学しました。入学後に西村に話しかけたのはまったくの偶然。まさか吹奏楽経験者だとも思わなかったんですけど、同じ吹部希望だとわかって、一緒に入部しました」

 詩は1年生から、花奈子は2年生からコンクールメンバーとして全国大会を経験した。マーチングコンテストはふたりとも2年間全国大会に出場し、演奏・演技を披露した。結果はすべて銀賞。悔しい気持ちも一緒に味わった。

 特に、ふたりとも強烈に覚えているのは昨年10月の全日本吹奏楽コンクールだ。詩は言う。

「課題曲の1音目から、小西先生の指揮、隣や向かいにいる先輩たちの顔を鮮明に思い出せます。フルートを吹きながら、『ここまで頑張ってきたんだから、どうしても金賞が欲しい!』と強く思いました」

 花奈子にとっては昨年が初めての全日本吹奏楽コンクールだった。

「前の年はメンバーではなかったので、会場まで同行し、舞台袖から西村たちが演奏するのを見ていました。すごく感動したし、『私もこの舞台に立ちたい』と思いました」

 昨年、メンバーに選ばれた花奈子は同じパートの先輩たちと何度も話しあい、ともに悩みながら演奏をつくりあげていった。

「本番の演奏では、自分たちがやってきたことを存分に表せたと思います。ただ、結果は銀賞……。そのとき、自分が本当に目指しているものは金賞だ、私はこのままで終わりたくないと思いました」

 ふたりは翌月の全日本マーチングコンテストにも出場し、銀賞を受賞。「来年こそはコンクールもマーチングも全国大会金賞」との思いをさらに強くしたのだった。 

 先輩たちが引退した後、詩は新部長に立候補して承認され、花奈子は副部長になった。詩は言う。

「実は、いままでリーダーを務めたことがなかったのですごく不安でしたが、永田(花奈子)が副部長をしてくれるならやっていけると思いました。私が富商に来ていちばんよかったと思っているのが、永田と出会えたこと。そして、一緒に部活をできていることです。リーダーの役割も、永田がいるから頑張れる自信があります」

 楽天的な詩にとって、物事をじっくり深く考える花奈子は自分にない視点を与え、自分に足りない部分を補完してくれるかけがえのない存在だ。

 一方の花奈子も、詩に対する信頼は深い。

「西村(詩)はたくさん私の話を聞いてくれます。私は少し心配性で、トランペットの演奏が上手にできるか不安になってしまうのですが、うまくいくと『よかったね!』と自分のことのように喜んでくれるのがとても嬉しいです。副部長をやると決めたのも、西村が部長に立候補したからです」

 吹奏楽の名門校で活動していく上では、大変なこと、つらいこともある。それを乗り越えてやってこられたのは、お互いの存在があったからだ。

 「北陸の横綱」富山商業だが、長く使われつづけている練習場はプレハブで、冬寒く、夏暑い。この春は新入部員が36人も入って総勢68人となったが、全部員が練習場に入ると少々手狭になる。

 今年の3年生はわずか11人。この少数で5倍以上の後輩たちを引っ張っていかなければならない。また、コンクールメンバーのほとんどを3年生が占めるライバル校に比べれば不利な面もある。

 だが、詩たち3年生は「人数の少なさを言い訳にしない」ということを心に決め、コンクールとマーチングでの全国大会金賞を目標に据えた。花奈子はこう言う。

「今年のキーワードは『化ける』です。私たちはよく音楽面でも行動面でも『積極性に欠ける』『こじんまりしている』と言われます。今年は部員全員が自分の殻を破り、『化ける』ことで、銀賞の壁を越えたいです」

 詩は「銀賞の壁」を越えるため、全国大会で金賞をとっている学校から学ぶものがたくさんあると感じている。

「金賞バンドは上手なだけではなく、音楽で伝えたいことがしっかり伝わってきます。だから、聴いていて楽しい。私たちも全員がもっと音楽を好きになり、こだわりを持ち、『この音を出すためにこんな工夫をしました』と言えるくらいに練習しなければと思います。そして、もし今年もまた北陸代表に選んでいただけたとして、ほかの北陸の学校から『富商が全国に行ってくれてよかった』と思ってもらえるような部活であるべきだし、全国大会金賞という結果も北陸に持って帰りたいです」

 コンクールの富山県大会は7月26日、全国大会に出場する代表2校が決まる北陸大会は8月11日に開催される。すでに3カ月を切っており、部員たちは早くも焦りを感じている。

 リーダーの詩と花奈子にもプレッシャーがかかるが、ふたりにとってお互いの存在が支えになっている。詩はこう語る。

「まだコンクール曲も決まっていないし、課題は山積みです。県大会までに時間がなく、県大会から北陸大会までの間も短いので、いまからもう『やばい、まずい』と思ってしまっています。でも、永田とふたりなら、どんな困難でも乗り切っていける気がするんです」

 練習場の外からは、遠く立山連峰が望める。美しくも雄大なその頂は、あたかも全国大会金賞という大きな目標のように見える。

 今年、あつい友情と絆で結ばれたふたりの少女が、富山商業をその場所へと導いていく。


『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス

⬇️⬇️⬇️これから開催される“吹奏楽”の公演を「ぶらあぼコンサート検索」でチェック⬇️⬇️⬇️