中村恵理(ソプラノ)

国際的に活躍するソプラノ歌手の現在を聴く

©Chris Gloag
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 いま最も聴いておくべきソプラノの一人だろう。バイエルン国立歌劇場専属歌手としてミュンヘンを拠点に活動している中村恵理が紀尾井ホールでリサイタルを開く。ネトレプコの代役としてロイヤル・オペラに出演し成功したのも記憶に新しい中村だが、リサイタル当日は、紀尾井ホールの20回目の開館記念日にあたる。
「光栄です。あまり堅苦しくなく、お祝いの雰囲気を出せるようなプログラムを考えました。前半は日本とイタリアの歌曲です。せっかく桜の季節の四谷なので『さくら横ちょう』を歌いたくて、まず中田喜直さんの歌曲を選びました」
 後半はオペラ・ナンバー。
「グノーの《ロメオとジュリエット》は大好きなオペラ。その中でも一番気に入っている第4幕の二重唱は、華やかでドラマティックな、オペラの良いところがぎゅっと詰まっています」
 着実に活躍の場を広げている彼女。昨秋にロンドンとザルツブルクで歌った初役の《リゴレット》のジルダも高い評価を得た。
「ひょっとしたらジルダはあの時(2014年2ヵ所での公演)が最後になるかもしれません。ジルダはドラマティックな声も必要ではあるものの、いまの私にはちょっと遅かったかなと思うのです。年齢につれて声が成熟して重くなっていますから、リリコのレパートリーのほうがいまの声に合っているし、感情を乗せられる役が多いので」
 劇場は2〜3年先の演目を決定し、出演のオファーを出すから、自分の声の変化を計算して出演を判断するのは難しい。しかし、高音の技巧だけでなく、中声域も充実した彼女のリアルな「歌」でソプラノ・リリコの膨大なレパートリーを聴く日を想像すると、わくわくしてくる。来年《ラ・ボエーム》のミミを歌うことになっているそうで、その結果で今後を判断したいという。
 紀尾井ホールが誕生した1995年は阪神・淡路大震災の年でもある。彼女の運命も、災禍が変えた。当時兵庫県の高校に通い、音楽教員を目指して毎日ピアノの練習に打ち込んでいたが、ピアノどころではなくなった。
「そんな時、高校で、元気を出そうと『第九』を歌うことになり、歌ってみたら他の人より高い声が出ることに気づいたのです。すぐに声楽の先生のところに連れて行かれ、あれよあれよという間に声楽科を受験することになっていました」
 これが彼女のスタート。震災がきっかけ、というのは不適切だけれど、世界の声楽界にとってまさに「禍を転じて福となす」出来事だったと言える。
 リサイタルは、イタリア人のテノール、エマヌエーレ・ダグアンノが共演。残念ながら今のところ日本ではなかなか聴くことができない彼女の実演に接するチャンスを、逃してはならない。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年4月号から)

紀尾井ホール開館20周年記念公演
中村恵理ソプラノリサイタル
4/2(木)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp

他公演
4/7(火) 川西市みつなかホール 問:072-740-1117