ブラジルが誇る新世代ピアニスト、クリスティアン・ブドゥが初来日!

「クララ・ハスキル」覇者が愛する母国の作品でその実力を披露

文:飯田有抄

 日本は、クラシックの一流アーティストが世界中から訪れ、コンサートが次々と開かれる恵まれた国であるが、必ずしも全ての優れたアーティストが来日できているわけではない。ピアニストのクリスティアン・ブドゥもその一人であったが、満を持して初来日を果たし、名古屋と東京、大阪でようやくその実演に触れられる!

クリスティアン・ブドゥ ©Elan Ash

 ブドゥは世界の音楽界が注目するアーティストである。イギリスのグラモフォン誌で「ベートーヴェン録音トップ10」「ショパン録音トップ10」に選出され、人気ヴァイオリニストのルノー・カプソンとの共演や、ラ・ロック=ダンテロン国際ピアノフェスティバルで高い評価を得ている例を挙げれば、その活躍ぶりがわかるだろう。ブドゥの国際的な注目が高まったのは、なんといっても2013年のクララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝である。彼は当代屈指のピアニストとして名を馳せたネルソン・フレイレと同じブラジル出身であり、フレイレからは「自分の後継者」と認められたピアニストである。

 ルーマニア人の両親のもとに生まれ、ルーマニア語を第一言語として育ったブドゥは、クラシック音楽を聴いて育った。サンパウロ大学でピアノを学んだのちアメリカへと渡り、ボストンの名門ニューイングランド音楽院に在学中から意欲的に演奏活動を展開してきた。上述の通り高く評価されたブドゥのアルバム『Chopin & Beethoven』では、詩情にあふれ、温かみのある音色で奏でるショパンの前奏曲全曲と、上品で明るくユーモアに富んだベートーヴェンの「7つのバガテル」で、瞬時に聴き手の心を掴む。Apple Musicなど各種ストリーミング・サービスから配信されているので、ぜひチェックしていただきたい。きっと「これは実演のチャンスを逃すわけにはいかない!」と感じられることだろう。

 ブドゥ自身は幼少期から日本文化との関わりがあったという。
「訪れるのは今回が初めてですが、日本との関わりはこれまでにもありました。私は幼少期に、日系移民の子どもたちを中心に結成された児童合唱団に所属していたのです。指揮の吉田輝男さんの指導を受け、サマーキャンプでは日本の子どもたちの家族と過ごし、文化や伝統の交流がありました。1999年に天皇陛下がブラジルをご訪問されたときには、私たちは陛下の前で歌うという名誉にも恵まれたのです」

 そんなブドゥの日本デビューのプログラムはとてもユニークだ。まず、J.S.バッハの次男であるC.P.E.バッハ(幻想曲 ハ長調)、シューマン(アラベスク、クライスレリアーナ)、そしてドビュッシー(版画)を並べ、前期古典派、ロマン派、近現代のピアノ音楽の色彩を提示する。

 その後、20世紀の作曲家カマルゴ・グァルニエリ(1907〜1993)と、日本でも受容が広がりつつあるエイトル・ヴィラ=ロボス(1887〜1959)という二人のブラジル人作曲家に光を当てる。それぞれの演奏作品について、ブドゥ自身から届いたメッセージをご紹介しよう。

「グァルニエリの作品からは、『ポンテイオス』という曲集の第45、40、30、49番を取り上げます。ポンテイオスとは“指先”を由来とする言葉で、この曲集は50の小品で成り立っています。グァルニエリのピアノに対する卓越した知識に基づき、ブラジル文化をユニークに表現した曲集です。45番はブラジル北東部の音楽的伝統を描いていますが、乾いた大地に伝えられたポルトガル大航海時代の聖歌を彷彿とさせます。40番はポリリズムとポリフォニーの輝きに満ち、30番は軽快なリズムと抒情的なメロディがサンバ・カンソン(ゆったりとしたサンバ)の真髄を伝えます。49番は執拗に繰り返されるオスティナートとロマンティックな歌により、グァルニエリがこの曲を捧げたスクリャービンの音楽を思わせます」

©Daniel Ebendinger

 ヴィラ=ロボスで取り上げるのは、4曲からなる曲集「ブラジルの詩」からの3曲。いずれも「ブラジルの特徴的な情景を表現している」という。

「最初の『いなかの田植え』は、ブラジルの大地と歴史を最も強く表現した作品の一つです。ある種の“労働歌”を思わせる曲で、苦悩と信仰、忍耐(ゆったりとしたメロディ)と恍惚(高音域のオスティナート)が、1日を、いえ、人生を満たしてくれるような音楽です。2曲目の『セレナード弾きの印象』は、私たちを20世紀初頭のリオデジャネイロの夜へといざないます。静かな夜にギターで奏でるセレナータを思わせますが、ヴィラ=ロボスはリリカルかつドラマティックなピアノ表現を追求しています。最後に演奏する『奥地の祭り』は、ブラジル北東部の魅惑的なリズムにあふれ、踊りのエネルギーが終わらぬ夜を思わせます」

 実にチャーミングで聴き応えのあるプログラムだ。ブドゥの日本初リサイタルは、色鮮やかなステージとなりそうだ。

©Lucca Mezzacappa

【Information】

クリスティアン・ブドゥ ピアノ・リサイタル

2024.11/7 (木)19:00 名古屋/電気文化会館 ザ・コンサートホール
2024.11/15(金)19:00 王子ホール
2024.11/30(土)14:00 大阪/すばるホール

〇曲目
C.P.E.バッハ:幻想曲 ハ長調 H.284
R.シューマン:アラベスク op.18、クライスレリアーナ op.16
C.ドビュッシー:版画
C.グァルニエリ:ポンテイオス 第45番、第40番、第30番、第49番
H.ヴィラ=ロボス:ブラジルの詩(抜粋)

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