音楽監督デュメイと関西フィルが魅せる充実のアンサンブル

大阪・いずみホールで「セレナード・コレクション」を開催

オーギュスタン・デュメイ
(c)Michel Cooreman

 関西フィルハーモニー管弦楽団は、前回の「大阪万博」が開催された1970年にヴィエール室内合奏団として誕生し、82年に現在の名称に変更された。関西のオーケストラとしては大阪フィルハーモニー交響楽団(47年創立)、京都市交響楽団(56年創立)に次ぐ歴史を有する楽団として、この地域の音楽文化を牽引してきた。彼らは、楽団名の通り関西の隅々まで足を運び、音楽の喜びを地域社会と分かち合う活動を数多くこなしている。

 2000年に正指揮者、07年に首席指揮者に就任した藤岡幸夫は、定期演奏会や主催公演に加え、企業や地方自治体からの依頼公演を進んで指揮することで、楽団のファン作りを徹底して行った。プログラムに関しても、リクエストの多さに対して演奏されることの少ない映画音楽やポップスを組み込みつつ、「前半でそれらを取り上げる代わりに、後半は交響曲やクラシックの曲を演奏させてほしい!」といった具合に、丁寧な意見交換を相手先と行うなど、責任のある選曲を実施。そして、その経緯を藤岡自身が本番当日に聴衆に語りかけ、プログラムに興味を持たせた上で、オーケストラは手を抜かずしっかり演奏し、少しずつ聴衆を育てて、関西フィルのファンに取り込んできた。

藤岡幸夫 (c)森口ミツル 写真提供:大阪国際フェスティバル

 2014年10月から始まったBSテレビ東京の音楽番組『エンター・ザ・ミュージック』(以下、ETM)は、藤岡自身がナビゲーターを務め、関西フィルが登場することで、両者の知名度を全国区へと高めるキッカケとなった。人気番組として現在も放送されている。指揮者やソリストも出演を希望し、音楽関係者の評判も良いようだ。クラシック音楽を身近に感じてもらいたいという藤岡自身の思いが『ETM』と連動することで、次々と形になってきている。

ヨーロッパ・ツアーを経て深まるデュメイとの信頼

 肝心の音楽面では、世界的なヴァイオリニスト、オーギュスタン・デュメイが2000年から関西フィルを指揮しはじめて、08年に首席客演指揮者、11年には楽団初の音楽監督に就任。当初は、デュメイ見たさに会場にファンが殺到。デュメイもプログラムの前半にヴァイオリン・ソナタを組むなど、期待に応えてみせた。また彼は、首席奏者を中心とした室内楽公演を数多く開催。大阪の住友生命いずみホールやザ・フェニックスホールなどで、小編成のアンサンブルを披露する機会を多く作り、弦楽器の実力はもちろん、オーケストラ全体のアンサンブルの精度が飛躍的に上がった。憧れのデュメイと、我らが関西フィルのメンバーによるコンサートは、定期会員やファンにとって嬉しく誇らしいハレの場なのだ。

 2015年と23年に行われた欧州公演は、楽団の一大トピック。「クラシック音楽の本場欧州で自分たちの実力がどこまで通用するのか?」というメンバーが抱えていた不安は、最初の演奏会場で聴衆の温かい拍手・喝采を受けて杞憂であることが分かった。そして、欧州におけるデュメイ監督の人気の凄さを実感することとなる。最初(15年)のスイス、ドイツ、イタリアの3ヵ国5都市ツアーでも、2度目(23年)のベルギー、フランス、ドイツの3ヵ国3都市ツアーでも各地で大きな注目を集め、メンバーは得難い経験をした。特に2度目の欧州公演は、楽団創立50周年事業として21年に予定されていたが、コロナ禍により延期となったもの。日本のプロオーケストラとしてはコロナ禍後、最初の海外公演だったこともあり、大変意義深いツアーとなった。

ベルギー・ゲントでの公演の様子(2023年) (c)Olivier Anbergen
観客総立ちのパリ公演(2023年) (c)TK ALEX

座席数800、最高クラスの音響空間で味わう室内楽の名曲

 今シーズン、9月と11月に住友生命いずみホールで開催する「音楽監督デュメイPresents!癒しのセレナード・コレクション」は、以前頻繁に行っていた小編成のアンサンブルを、2回目の欧州公演を終えたこのタイミングで実施することで、デュメイの音楽性を確認し、両者による音楽作りのプロセスや方法を再度見直す場として企画された。弦楽器と管楽器のアンサンブルを別々に行うことで、発見や気付きも多く、メンバーが基本に立ち返る意味でも大変重要なことなのだ。

関西フィルハーモニー管弦楽団 (c)樋川智昭

 第1回(9/13)はヨゼフ・スークの弦楽セレナードop.6より第1楽章と第4楽章、ドヴォルザークの管楽セレナードop.44、そして同じ作曲家の弦楽セレナードop.22という魅力的なプログラム。第2回(11/22)はモーツァルトのセレナード第13番K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、モーツァルトの管楽器のためのセレナード(第11番)K.375、そしてチャイコフスキーの弦楽セレナードop.48という、楽器初心者や中・高生の吹奏楽部員にもオススメしたい名曲が並ぶ。これらの曲をデュメイの指揮で関西フィルが演奏すると、さて、どんなパフォーマンスになるのか。楽団の本気度が伝わる、堂々のシリーズ2本立て。これは必聴だ!

 昨年、楽団を長きに渡り牽引した桂冠名誉指揮者の飯守泰次郎が亡くなり、新たに首席客演指揮者として鈴木優人が指揮陣に名を連ねた。更なる個性がぶつかり合い、益々充実の関西フィルは、来年2度目の「大阪万博」を迎える。創立55年に向けて思いを新たにする関西フィルの勇姿を、しっかり見届けたい。

文:磯島浩彰


関西フィルハーモニー管弦楽団

住友生命いずみホールシリーズVol.58
音楽監督デュメイPresents!
癒しのセレナード・コレクション1~東欧のセレナード

2024.9/13(金)19:00

住友生命いずみホールシリーズVol.59
音楽監督デュメイPresents!
癒しのセレナード・コレクション2~王道のセレナード

2024.11/22(金)19:00

大阪/住友生命いずみホール

指揮:オーギュスタン・デュメイ(音楽監督)

プログラム
【9/13】
ヨゼフ・スーク:弦楽セレナード 変ホ長調 op.6 より 第1楽章・第4楽章
ドヴォルザーク:管楽セレナード ニ短調 op.44、弦楽セレナード ホ長調 op.22

【11/22】
モーツァルト:セレナード第13番 ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、管楽器のためのセレナード(第11番)変ホ長調 K.375
チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 op.48

問:関西フィルハーモニー管弦楽団06-6115-9911
https://kansaiphil.jp