東京オペラシティ B→C 長谷川将山(尺八)

楽器が秘めた可能性を探究し尽くす一本勝負のステージ

©平舘 平

 東京オペラシティの名物企画「B→C」には、毎年10人ほどの若手・中堅の音楽家が選ばれているが、25年を超える歴史のなかで邦楽器の出演は7名と数少ない。過去出演者のひとりに、現在は名実ともに尺八の第一人者である藤原道山がいるが、その高弟と呼ぶに相応しいのが、今年30歳を迎える長谷川将山だ。今回、その彼が「B→C」でこだわりの無伴奏プログラムに挑む。

 「慷月調」は彼が所属する都山流の流祖である初代中尾都山の第一作。宮城道雄とヘンリー・カウエルに学んで、世界に箏を広めた唯是震一の無伴奏組曲第三番は、もともとフルートの曲だが伝説的な尺八奏者である初代山本邦山によって尺八のレパートリーとなった。12音技法で書かれているがまるでヒンデミットのよう! そして師である藤原道山に捧げられた川島素晴の難曲、自分がコラボレーションしてきた同世代の作曲家・向井響の書き下ろし新作……と、前半は自らへと至る都山流の系譜にも思いを馳せる。

 後半は、意外かもしれないが尺八で演奏されることが極めて稀な——もしかすると全曲は史上初!?——J.S.バッハの無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013ではじまる。特にサラバンドの奥行きの深さは尺八ならではで、必聴だ! もうひとつの委嘱作として、いまジャンルを超えて注目・評価をされている坂東祐大の新作が続き、最後はまるで古典のような趣をもつ松村禎三の傑作「詩曲二番」(委嘱と初演は初代山本邦山!)で締めくくられる。ストイックでありながらも多彩なプログラムに期待値は非常に高い。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2024年9月号より)

2024.9/10(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp