牧野葵美(ヴィオラ)

“歌うように弾く”ことが今回の挑戦です


 紀尾井ホールの新進演奏家シリーズ『明日への扉』にヴィオラ奏者の牧野葵美が登場する。大阪出身。3歳からヴァイオリンを学び、大学卒業と同時に、高校時代から並行して弾いていたヴィオラに転向した。
「相愛(高校・大学)のオーケストラでは、ヴァイオリン専攻生は全員ヴィオラも弾くことになっていて、学校のヴィオラを借りて始めました。それまでに知っていた交響曲が今までと違う視点で見えて、とても興味深く感じました」
 その後ジュネーヴ高等音楽院で今井信子に学び、現在はマンチェスターのノーザン音楽大学でガース・ノックスに師事しながら活躍の場を広げている。
「大阪で開かれたヴィオラスペースで信子先生に出会い、絶対にこの先生だ、いま行かなければ後悔すると直感しました。スイスとイギリスとでは、学校の様子も生活もずいぶんと違いますね。マンチェスターのほうが授業の出席も厳しくて、日本の学校のイメージに近いです。ジュネーヴはかなり自由で、生徒はみな自分のしたいことを自分勝手にやっていました。挨拶も、ジュネーヴでは頬と頬を合わせてキスするフランス式で、たとえば相手のシャンプーや香水の匂いだとか、たばこの好きな人、コーヒーをいつも飲んでいる人がすぐわかります。イギリスでは握手なので、ちょっと物足りなく感じるときもあります」
 リサイタルではフランク・ブリッジとブリテンの近現代英国作品、コンクールの課題曲だった細川俊夫の「哀歌」、そしてシューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」、ジンバリスト「サラサーテアーナ」を弾く。ピアノの共演は有吉亮治。
「聴く人がヴィオラの新しい魅力を発見できるような、そしてまた私自身も若い今だからこそ挑戦できる、少し変わったプログラムにしようと思いました。器楽奏者にとって、“声で歌うように弾く”ことは、最も難しいことのひとつだと思います。それぞれの歌をどうやって一本のヴィオラで表現できるかが私の今回のリサイタルでの挑戦です」
 紀尾井ホールは、2012年の東京国際ヴィオラコンクールで第3位に入賞した、彼女にとって特別な場所だ。
「留学を決めた頃は、そのあとすぐにオーケストラ奏者になるのだと思い込んでいました。それが紀尾井ホールでソロ・リサイタルの機会をいただけるなんて夢にも思っていませんでした。これからも未来は予想できませんが、自分の可能性を低く見積もることなく、また極端に高く見積もって虚勢をはることなく、等身大の自分を見失わずに活動できたら理想的です」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)

紀尾井 明日への扉 8 牧野葵美(ヴィオラ)
3/23(月)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp