田中千香士音楽祭2024
第24回 明治座クラシックコンサート 密着レポート 前編
写真・取材・文:編集部
岐阜県中津川市街から車で1時間ほど走ったところに、加子母(かしも)という土地がある。東濃ひのきの産地として名を馳せ、今ではトマトも名産品となっている山村だ。その山裾に明治27年に地元の有志たちによって建てられたその名も「かしも明治座」という130年の歴史を誇る芝居小屋がある。岐阜県は、プロの役者ではなく一般庶民が演じる「地歌舞伎」が盛んで、この地域にはほかにも歴史ある芝居小屋が複数点在し、地元民に親しまれてきている。
そのかしも明治座に年に一回、国内第一線の奏者たちが集まって行われる音楽祭がある。かつてNHK交響楽団のコンサートマスターを務めた田中千香士が、友人のギタリスト 荘村清志と中津川でコンサートを開催した際に、加子母のある方から「ぜひ木造の芝居小屋でヴァイオリン(ストラディヴァリウス)を弾いてみてほしい」と頼まれたのが発端という。その後、平成10年に「生のクラシック音楽に触れる機会の少ない山村の子どもたちに、本当の楽器の音を感じてもらいたい」と明治座クラシックコンサートが誕生した。
平成21年に田中は亡くなってしまうが、その後、高弟のひとりである元N響ゲスト・コンサートマスターの白井圭を音楽監督に迎え「田中千香士音楽祭」として継続している。
今年は24回目、6月1日、2日にコンサートが開催された。白井が指揮・ヴァイオリン、ソリストは読響の首席オーボエ 荒木奏美。管弦楽は、プロの奏者と東京藝大の学生・卒業生により結成された「レボリューション・アンサンブル」で、今回のコンサートマスターは、読響でコンマスを務める戸原直が担当する。ほかもN響をはじめとしたトップオーケストラ奏者たち、錚々たる顔ぶれが揃う。過去の参加者たちも、国内外のオーケストラで首席クラスを務める奏者が数多くいる。
本公演に先立って5月31日には、まさにこの音楽祭の原点とも言える「子どものためのコンサート」が行われ、近隣の街からマイクロバスを連ねて小中学生がかしも明治座にやってきた。それぞれの楽器の特徴を紹介するコーナーでは、子どもたちが親しめる曲で笑いをとったりもしたが、後半はベートーヴェンの交響曲第2番を通して演奏、迫力のオーケストラの音に盛大な拍手が送られた。
続く6月1日、2日が音楽祭の本公演。近隣以外にも遠方からやってくるお客さんもいて、期待度の高さが窺われる。
以下がプログラム。
モーツァルト:セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ K.239」
R.シュトラウス:オーボエ協奏曲
ベートーヴェン:交響曲第2番 Op.36
小屋の外には裏木曽の山並み、田植えを終えたばかりの田園にホトトギスの声が響いている。初夏の日差しが傾いてきたころ、演奏が始まった。築130年の木造建築に、オーケストラの音が響き渡る。これこそ正真正銘のアコースティックサウンドというのだろう。取材では、細部まで丁寧に磨き込むリハーサルにも立ち会ってきたが、そこはやはり本番、エネルギーと集中力の充実度が違う。本質はそのままに音楽の濃度が格段に上がっている。
歴史ある芝居小屋という舞台が醸す独特な雰囲気に、一年間この日を楽しみにしてきた観客の期待感、そして実演の迫力に接して会場は歓喜に沸いた。終演後に行ったアンケートの回収率はなんと70%!しかもほとんどがメッセージ付き。満足度の高さを象徴した驚きの結果であった。
後編はこの音楽祭の舞台裏に潜入、お楽しみに!
かしも明治座
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