河村尚子(ピアノ)

20年の歩みを経て、今を刻む

©Marco Borggreve

 2024年は、ドイツ在住のピアニスト、河村尚子の日本デビュー20周年に当たる。

 「2003年のゲザ・アンダ国際コンクールで入賞した時の審査員で指揮者のウラディーミル・フェドセーエフさんが、翌年の東京フィルハーモニー交響楽団定期に抜擢してくださり、ショパンの協奏曲第2番を弾いたのが最初でした」

 2009年にはBMG(現ソニークラシカル)からショパン作品集をリリース、ディスクデビューも果たした。

 20周年記念のイベントもコンサート、ディスクの二本立て。リサイタルは9月19日の佐賀を皮切りに30日の東京まで全国7ヵ所を回る。中でも最終日の東京は、ソロ・リサイタルでは初めてのサントリーホールとなる。それぞれの曲目に対する河村自身のコメントを列挙する。

 「J.S.バッハ=ブゾーニの『シャコンヌ』は2011年の東日本大震災の1ヵ月後、自粛さなかの東京で弾いた曲。今回も能登半島地震で被災した方々への祈りとして奏でます。プロコフィエフのソナタ第7番『戦争ソナタ』は恩師ウラディーミル・クライネフ先生の十八番でしたが、私にとっては新しいレパートリーです。ドイツに住んでいるとウクライナもガザも日本より間近に感じられ、安らかな日々が崩壊しつつある気がします。『戦争ソナタ』は今の世の中を映す鏡です。

 ショパンのソナタ第3番を大ホールで弾くのは初めて。2011年録音のディスクもあり、この曲とともに成長してきた姿を節目の年に改めて、お聴かせします。即興曲第3番と組み合わせた理由は、最近フランス音楽に力を入れていることもあり、ショパンの中でもとりわけフランス的と思える作品だからです」

 前半ではケルン在住の作曲家、岸野末利加(1971〜)への委嘱作品「単彩の庭(Monochromer Garten)IX」が目を引く。

 「私が教えているエッセンのフォルクヴァング芸術大学の同僚を通じて知り合いました。日本庭園をイメージした『単彩の庭』は2011年から様々な編成で書き連ねているシリーズですが、ピアノソロはIXが初めてです」

 今年6月にノイマルクト(ドイツ)でセッション録音する予定の20周年記念アルバムは「小さきものに宿るは無尽蔵の音楽宇宙」をコンセプトとした小品集。

 「まだ全曲を固めたわけではないのですが、せっかくですから20曲にしたい(笑)。ショパンの即興曲第3番やバッハ=ペトリの『羊は安らかに草を食み』など、皆さんが『この曲は聴いたことがあるし大好きだ』と思われる曲から未知の素敵な曲まで、音楽のウィンドウショッピングをお楽しみいただければと考えています」
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2024年6月号より)

デビュー20周年特別プログラム 河村尚子 ピアノ・リサイタル
2024.9/30(月)19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 

https://www.japanarts.co.jp

他公演
2024.9/19(木) 佐賀/焱の博記念堂文化ホール(0955-46-5010)
9/21(土) 神奈川/フィリアホール(045-982-9999)
9/22(日・祝) 山形/白鷹町文化交流センター AYu:M(あゆーむ)(0238-85-9071)
9/25(水) 栃木県総合文化センター(とちぎ未来づくり財団文化振興課028-643-1010)
9/28(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール(0798-68-0255)
9/29(日) 軽井沢大賀ホール(0267-31-5555)