自身の音楽観を6曲に込めて
名ヴァイオリニストとしても知られていたイザイ。彼の作曲したもののなかでも、無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、さまざまな技巧やスタイルがちりばめられた、もっとも野心的な作品だ。全6曲からなるソナタは、それぞれシゲティ(第1番)やティボー(第2番)、クライスラー(第4番)といった往年のヴァイオリニストたちに捧げられている。
今夏、周防亮介がソナタ全6曲の公演に臨む。力強さと艶やかさを併せ持ち、スケールの大きな演奏を聴かせるヴィルトゥオーゾだ。なんといっても、一つひとつの楽曲への入れ込み具合は壮絶そのもの。そして、曲の技巧的な難度が高ければ高いほど、ひたむきなまでにその集中力は増し、音楽はさらに大きくなる。
弦楽器の殿堂たるトッパンホールで聴く周防のヴァイオリンは、とりわけ輝かしく感じる。2021年には、パガニーニとシャリーノのカプリースを組み合わせ、その動と静がうねるようなプログラムで客席を魅了した。その後も、精彩ながら強靭な集中力で弾ききったヴィトマン作品、あるいはアンサンブルのメンバーとしても優れた腕前を披露した。オーケストラが鳴っているかのように響いた、エルンストの「シューベルトの『魔王』の主題によるグランド・カプリース」も忘れがたい。
この演奏家にとって、イザイのソナタはさまざまなアイディアが次々にわき出てくる泉のような音楽。それぞれ違ったスタイルをもつソナタを鮮やかに描き分けてくれるのではないか。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2024年6月号より)
2024.8/8(木)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com