2024年8月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。海外にはなかなか出かけられない日々が続きますが、“妄想トラベル”を楽しみましょう!
[以下、ぶらあぼ2024年5月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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【8月の注目公演】(通常公演分)

 今年は、8月中に通常公演の始まる劇場やオーケストラはあまり見受けられないが、ベルリン・フィルは、ザルツブルクやルツェルンの音楽祭ツアーに先立って、まず本拠地ベルリンのフィルハーモニーでシーズン開幕演奏会を必ず行うのが毎年の常。正確な日程は4月23日に発表されるが、おそらく、8月23日にキリル・ペトレンコの指揮するブルックナーの交響曲第5番で幕開けとなるだろう。一方、8月中にシーズンが開幕することの多いベルリン州立歌劇場(リンデン・オーパー)は、ドレスデンのゼンパーオーパーの音楽監督を辞したティーレマンが新しいシェフとなるため、この原稿執筆時点ではまだ新シーズン・新体制の詳細発表がない。何が出てくるのかファンにとっては待ち遠しい。なお、ケルンのフィルハーモニーでは、通常公演というより、正確には「FEL!Xフェスティバル」公演とすべきかもしれないが、エラス=カサド指揮アニマ・エテルナによるブルックナーの交響曲第4番という興味をそそられる演目がある。

●【夏の音楽祭】(8月分)

〔Ⅰ〕オーストリア

 「ザルツブルク音楽祭」のオペラ公演で最大の注目はヴァインベルクの「白痴」だ…と言ったら、筆者の音楽センスが疑われてしまうだろうか。しかし、バルトリの出演する「皇帝ティートの慈悲」やティーレマン指揮の「カプリッチョ」、ミンコフスキの振る「ホフマン物語」といった公演は誰でも注目公演として挙げるだろう。その中で、ドストエフスキーの同名小説に基づくヴァインベルク最後のオペラ作品「白痴」をウィーン・フィルで聴けるというのはこの音楽祭ならではの幸運と言って過言ではない。例年、ザルツブルクの近現代オペラ作品で見せるウィーン・フィルの卓越した演奏ぶりは尋常ではない。確かにほとんど認知度のない作品ではあるが、夏に少々冒険してみるのも悪くはない。なお、オーケストラでは、サヴァールのベートーヴェン、ムーティ=ウィーン・フィル、ペトレンコ=ベルリン・フィルのブルックナー、ラトル=バイエルン放送響のマーラーなど注目公演が続く。室内楽では、エベーヌ、ベルチャ各四重奏団といった現代の四重奏を牽引する定番のアンサンブルが花を添える。そして、今年もコパチンスカヤ。ソプラノのプロハスカと組んだクルターグの「カフカ断章」は最高の聴きものだ。

 古楽音楽祭の定番「インスブルック古楽音楽祭」は相変わらず内容充実。ジャコメッリの「エジプトのチェーザレ」、ヘンデルの「クレタのアリアンナ」、グラウプナーの「カルタゴの王ディド」の3つのオペラを柱として、ルクス、ダントーネ、マルコンといった指揮者たちが腕を競う。「シューベルティアーデ」は室内楽中心の音楽祭として魅力横溢。「ブレゲンツ音楽祭」では、生き物のタコを人間自身との関係で表現するというブレナンの新作オペラ「Hold Your Breath」が何とも謎めいていて興味深い。「グラーフェネック音楽祭」では、この秋に来日を控えたアルティノグリュ=hr響や、ラトル=バイエルン放送響などに注目。
オーストリアの公演情報

〔Ⅱ〕ドイツ

 今年の「バイロイト音楽祭」の「リング」はバイロイト史上3人目の女性指揮者シモーネ・ヤングが指揮台に上る。この指揮ぶりも見ものではあるが、今年の場合は、ジークフリート、タンホイザーを歌うフォークトと、パルジファル、トリスタンを歌うシャーガーが共に今季絶好調のため、特にこの2人の現代のワーグナー歌いに大いに楽しませてもらえそうだ。

 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、クラリネットのザビーネ・マイヤーを加えた室内アンサンブルも面白そうだが、ラウテン・カンパニー・ベルリンの演奏する「ダンシング・クイーン」と称するプログラムが何とも興味をそそる。また、「ブレーメン音楽祭」と「ラインガウ音楽祭」にはバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ/鈴木雅明指揮)が登場する。12年ほど前にこの団体がライプツィヒ・バッハ音楽祭に初出演したときは大きな話題を呼んだが、今や、BCJの名を世界各地の音楽祭で見かけても驚くことは何もなくなってしまった。なお「ブレーメン音楽祭」には、ローレル指揮ル・セルクル・ドゥ・ラルモニー、エメリャニチェフ指揮イル・ポモ・ドーロ、「ラインガウ音楽祭」には、ベルリン古楽アカデミーなどの有名古楽系団体も出演する。「ムジークフェスト・ベルリン」は夏の音楽祭というより新シーズンに繋がる秋のイメージが強いが、8月分ではサヴァールの凝った企画が面白い。
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〔Ⅲ〕スイス

 スイス随一の夏の定番イベントである「ルツェルン音楽祭」。今年もシャイー、マケラ、ナガノ、フルシャ、ネゼ=セガン、シャニ、ペトレンコ、チョン・ミョンフンなどの有名人気指揮者が勢揃い。「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」では、庄司紗矢香の組むアンサンブルでの室内楽、コパチンスカヤとカメラータ・ベルンの組み合わせに多数のヴォーカリストが加わる演奏会など楽しみな企画が続く。また、この音楽祭には新シーズン始めの演奏会としてロンドン響が登場する。「ヴェルビエ音楽祭」の方には、初著作でも話題を呼ぶピアノの藤田真央が出演。ソロ・リサイタルの他、デュトワ指揮ヴェルビエ音楽祭管との共演もある。すでに「世界のMAO」とも呼ばれる彼の活躍がめざましい。
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〔Ⅳ〕イタリア

 「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」の目玉でもあるロッシーニのオペラは、今年も「ビアンカとファッリエーロ」、「ひどい誤解」、「エルミオーネ」と、他では聴く機会の少なそうな佳品が選ばれている。同じく珍しい作品を指向する「マルティナ・フランカ音楽祭」は、今年は、ベッリーニ「ノルマ」やヘンデル「アリオダンテ」という本格路線(?)に方針転換。「ノルマ」の指揮は、お馴染みのファビオ・ルイージが担当する。また、「ヴェローナ野外音楽祭」や「マチェラータ・オペラ・フェスティバル」では、オーケストラ・コンサートをこれまた日本でお馴染みのアンドレア・バッティストーニが振るのも注目だ。なお、発表が遅れていたローマ歌劇場の「カラカラ浴場」公演も7月に遡って掲載した。
イタリアの公演情報

〔Ⅴ〕フランス
〔Ⅵ〕ベネルクス

 古楽系随一の夏の音楽祭「ボーヌ・バロック音楽祭」は、今年は7月中の開催となった。最近になってやっと詳細が発表されたため、内容紹介は次号に譲らざるを得ないが、今年もローレル、エキルベイ、ダントーネ、マクリーシュ、フュジェ、アグニュー、ニケ、ノアリーなどの有名古楽系指揮者が名を連ねる。 同じ古楽系のベルギー「フランドル古楽祭(AMUZ)」には、出演常連であるウエルガス・アンサンブルなどが存在感を示す。さらに、フランスの「サブレ音楽祭」にはアラルコン指揮のカペラ・メディテラネア、デュメストル指揮のル・ポエム・アルモニーク、ドゥセ指揮のアンサンブル・コレスポンダンスなどが登場。さらに7月中開催の「サント音楽祭」には、サヴァール、ニケ、ヘレヴェッヘらの巨匠クラスの指揮者が出演する。まさに古楽系音楽祭が林立・競合するフランス、ベネルクス地域だ。なお、オランダの「ユトレヒト古楽祭」は予定発表が5月7日なので、次号での紹介も難しいかもしれない。ちなみにこれも7月中開催の音楽祭だが、フランスの「モンペリエ音楽祭」でロト指揮レ・シエクルがラヴェルの合唱と管弦楽のための世界初演曲を演奏するというのはどういうものなのか、大変興味が湧く。
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〔Ⅶ〕イギリス

 イギリスの「プロムス」は次号で紹介予定。「エディンバラ国際フェスティバル」には序盤にフルシャ指揮バンベルク響の演奏会が続くが、そこにゲストとして出演するG.マクバーニーは、シカゴ響が制作する「Beyond the Score」という、俳優の生演技や高度な映像投影、音楽断片の再構成等を通して包括的なマルチメディア体験を音楽ファンに提供しようというプレゼンテーションのクリエイティブ・ディレクター。「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、ソプラノのオールダーが出演するヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」が面白い。その他「グラインドボーン」と趣を同じくする「カントリーハウス・オペラ・フェスティバル」の一つ「ロングボロー・フェスティバル・オペラ」では、本年、ついにワーグナーの「リング」ツィクルスが上演される。
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〔Ⅷ〕北欧

 スウェーデン「ドロットニングホルム宮廷劇場」では、バロック劇場廻りの楽しみもあるだろう。今年は、比較的知名度の高いリュリの「アルミード」が上演される(コルティ指揮)。
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(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)