
『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年4月号海外公演情報ページ掲載の情報です]
曽雌裕一 編
↓それぞれの国の情報はこちらから↓
●【7月の注目オペラ・オーケストラ公演】(通常公演分)
2024/25シーズンにベルリン州立歌劇場の音楽監督に就任したティーレマンは、スケジュールの関係なのか、結局7月に振るR.シュトラウス「無口な女」がこの劇場でのオペラ初お目見え!7月初旬にはシュターツカペレ・ベルリンと演奏機会の少ないリストの交響詩も演奏するが、玄人好みの面白い選曲だ。
その他のオペラ公演では、ベルリン・ドイツ・オペラでベネディクト・フォン・ペーターの演出するヴァイル「マハゴニー市の興亡」、ドレスデン・ゼンパーオーパーではリーニフの振るチャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」、チューリヒ歌劇場のモンテヴェルディ「オルフェオ」(ダントーネ指揮)、ファン・ディエゴ・フローレスが出演するバーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」(リセウ大劇場)、パリ・オペラ座(ガルニエ宮)のオッフェンバック「盗賊」、6月からの継続公演では、ケルン歌劇場のマヌリ「人類最後の日」、ミラノ・スカラ座のベッリーニ「ノルマ」(ルイージ指揮)、リセウ大劇場のドヴォルザーク「ルサルカ」(グリゴリアン出演)などが注目公演。
オーケストラでは、ソヒエフがミラノのスカラ座管を振るベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」、パッパーノ指揮ロンドン響のR.シュトラウス「サロメ」(演奏会形式)などの声楽を伴う公演が7月の通常公演としては目を引く。
●【夏の音楽祭】(7月分)
〔Ⅰ〕オーストリア
まずは「ザルツブルク音楽祭」。7月恒例の「OUVERTURE SPIRITUELLE」シリーズは今年も面白い。今年のテーマは「Fatum」。ラテン語で「運命」の意味だが、むしろ「神の託宣」と捉えた方が各演奏会の性格付けには相応しいかもしれない。このテーマの下に、ムニエ指揮ヴォクス・ルミニス、タリス・スコラーズ、フライブルク・バロック管、アンサンブル・モデルン等の演奏陣が連日のコンサートを彩る。中でも、メッツマッハーの指揮するヘンツェのオラトリオ「メデューサの筏」、ムニエ指揮フライブルク・バロック管のバッハ「ヨハネ受難曲」、スイスの現代作曲家ミカエル・ジャレルのオペラ「カッサンドラ」、コパチンスカヤのヴァイオリンによるウストヴォルスカヤ等の作品などは非常に興味深い。さらには、ウィーン・フィルもこのシリーズに参加しており、ヴィオッティ指揮のストラヴィンスキー「エディプス王」、サロネン指揮のシェーンベルク「期待」といった要注目公演も並ぶ。このシリーズ外のオペラ公演には、アイム指揮ル・コンセール・ダストレによるヘンデルの「エジプトのジュリオ・チェーザレ」がある。エベーヌ弦楽四重奏団、バリトンのゲルハーヘル、ピアノのレヴィットなどの公演にも注目。
湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」。湖上ステージの方は昨年に続いて「魔弾の射手」だが、祝祭劇場で上演されるエネスクの「エディプス王」(リントゥ指揮)にも興味が湧く。「シュティリアルテ音楽祭」はかつてのアーノンクールの主宰する時代を経て、現在では古楽のサヴァールや、ピアノのエマールが重要な核として今年も活躍する。
〔Ⅱ〕ドイツ
「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、プリンツレゲンテン劇場で上演されるフォーレ「ペネロープ」にまず注目。それ以外は、6月にプレミエを迎えたモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」以下、今シーズン中にプレミエになった作品の再演が中心。中では、読響でもお馴染みのヴァイグレが指揮するR.シュトラウス「ダナエの愛」やワーグナー「ローエングリン」、トビアス・クラッツァーの演出が話題のワーグナー「ラインの黄金」などが注目公演。
今年の「バイロイト音楽祭」の新演出はガッティ指揮による「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。ワルター役を歌うのが、ワーグナー作品ではあまり名を見ることのなかったアメリカ人テノールのマイケル・スパイアーズというのが興味深い。だが、重厚ながら非常に高い音域まで楽々歌える歌手なので、堂々とした「優勝の歌」を聴かせてくれるに違いない。また、シャーガーの歌う「パルジファル」、フォークトの歌うジークフリートやフォスターの歌うイゾルデが万雷の拍手を浴びるであろう「リング」もファンにはたまらない。
昨年に続いて今年も「ヘレン・キームゼー音楽祭」を取り上げた。毎年出演する指揮のケント・ナガノはもちろんとして、今年はコンチェルト・ケルンの指揮者兼ヴァイオリニストとして登場する佐藤俊介にも注目したい。5月からの開催となる「ルール・ピアノ・フェスティバル」は、7月にはキーシン、藤田真央、レヴィットらの人気ピアニストが連日登場。ヨーロッパでしか聴けないピアノのレジェンド、グリゴリー・ソコロフは今年も「キッシンゲンの夏音楽祭」、「ラインガウ音楽祭」と連続して出演。その「キッシンゲンの夏音楽祭」では、ネトピル指揮チェコ・フィル、ウェルザー=メスト指揮バイエルン放送響、「ラインガウ音楽祭」では、フルシャ指揮バンベルク響が、ピアノのエマール、トリフォノフ、ヴァイオリンのカプソン、チェロのハーゲン等を共演者として登場する。「キッシンゲンの夏音楽祭」では、クリスティ指揮レザール・フロリサンによるヘンデル「時と悟りの勝利」も要注目、日本ではあまり知られていない「ルートヴィヒスブルク城音楽祭」には、ヴァイオリンのムターや五嶋みどり等が出演する。
〔Ⅲ〕スイス
例年通り「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」という山岳スキーリゾート地で行われる代表的2大音楽祭が注目企画。前者では、クリスティが手兵のレザール・フロリサンと共に演奏するヘンデル「エジプトのイスラエル人」が要注目。後者はいつもながらの演奏会数の多さに圧倒される。マケラやルイージの指揮(マケラはチェロも弾く)、キーシンや藤田真央のピアノ、カプソン兄弟とアルゲリッチによる室内楽、タメスティのヴィオラ、カヴァコスやヤンセンのヴァイオリン、マイスキーのチェロ、エベーヌ弦楽四重奏団等々、多種多彩なコンサートが連日のように繰り広げられる。
〔Ⅳ〕イタリア
イタリアでは、ローマ歌劇場の夏の定番「カラカラ浴場」公演で、カラカラ浴場の北約1キロにあるマクセンティウスのバジリカで上演されるジョルジュ・ペトルー指揮のヘンデル「復活」(オラトリオ)が面白い。カラカラ浴場では、バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」(ミキエレット演出)が取り上げられるなど、異色の選曲が行われている。また、玄人好みの音楽祭として毎年注目の「マルティナ・フランカ音楽祭」でも、今年はブリテンやラヴェルのオペラを取り上げるなど、企画の方向性に若干の修正傾向を感じる。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの代表的な野外音楽祭。
〔Ⅵ〕フランス
今年の「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、昨年同様、特定の指揮者やオーケストラが主導するのではなく、例えばオペラでは、ドセ指揮アンサンブル・コレスポンダンスによるカヴァッリ「カリスト」やミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルによるビゼー「真珠採り」(演奏会形式)という古楽系指揮者のラインナップがある一方、ラトル指揮バイエルン放送響によるモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」、ルスティオーニ指揮のリヨン国立歌劇場管によるヴェルディ「運命の力」、さらには、ブリテンの「ビリー・バッド」に基づくアレンジ劇、ディオティマ四重奏団によるブーレーズやリゲティ作品の演奏など幅広いメニューが予定されている。その他「モンペリエ音楽祭」ではクリスティ指揮のヘンデル「時と悟りの勝利」、「オランジュ音楽祭」ではネトレプコ出演のヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」など、人気を集めそうな演目が目白押し。
〔Ⅷ〕イギリス
「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、オールダーの出演するモーツァルト「フィガロの結婚」や、ティチアーティが指揮するワーグナー「パルジファル」に加え、コスキー演出のヘンデル「サウル」など面白そうな公演が続く。「ガージントン・オペラ」は日本ではまだまだ知名度が低いが、「グラインドボーン」に似た、広大な敷地でピクニックも楽しめる庭園型フェスティバル。メインのオーケストラはフィルハーモニア管だが、イングリッシュ・コンサートがピットに入るヘンデル「ロデリンダ」などもある。
〔Ⅹ〕東欧
スメタナの聖地チェコのリトミシュルで開かれる「スメタナ・リトミシュル音楽祭」(会場のリトミシュル城は世界遺産)は観光的要素も含めて非常に魅力ある音楽祭。
(以下次号)
(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)