及川浩治(ピアノ)

ショパンの深奥に分け入る

©Ayumu Gombi
©Ayumu Gombi
 ふたたび旅が始まる。及川浩治の『ショパンの旅』シリーズ第4弾が密度の濃いプログラムで開かれる。サントリーホールでのデビューから20周年という節目の年、及川はショパン円熟期の1841〜46年に書かれた作品群を中心に据えた。
「この時期、ショパンは恋人サンドとの関係や健康面において波乱に富んだ日々を過ごしています。ディープな精神性を孕んだ作品を書き、それらは激しい躁鬱、予想のつかない展開など、ショパンの天才的な閃きに満ちています」
 ポロネーズ第5番と「英雄ポロネーズ」(第6番)には、ショパンの「強さ」が表れていると及川は語る。
「ポーランド人としての誇り高き強さを示すと同時に、哀しく美しい世界へも揺れ動きます」
 後半は2曲のノクターン(第14番・第15番)の間に名曲「舟歌」を挿む。
「『舟歌』は、特別な作品ですね。ショパンは音楽に痛みや喜びなどの強い感情をぶつけますが、『舟歌』はそういったものを超越している。俗世を離れ、浄化された世界にある音楽です」
 ショパン晩年のピアノ独奏曲の傑作「幻想ポロネーズ」は、その「不可解さ」に魅力があるという。
「出だしから終わりまで、誰も予想がつかない展開をします。調性を探るように始まったかと思うと、突然勇壮なポロネーズのリズム、意外なほどメランコリックな旋律が現れる。終わりはフェイドアウトするかと思いきや、カーン! という一打で終わる。作曲当時、人々は理解に苦しんだようです。しかし、そのどこか破滅的な美しさは、ショパンの音楽の最大の魅力。弱さも、浮き沈みも、すべて赤裸々に音楽にしてしまうからこそ、僕らは共感するのかもしれません」
 一方、コンサートの始めと終わりには、ショパンの若かりし日の作品を配した。ノクターン第1〜3番で幕を開け、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」で終わりを告げる。「『アンダンテ・スピアナート』は、『幻想ポロネーズ』との対比により、ピュアな美しさが一層際立ちます。『ショパンはスターだった!』という爽やかな後味をお客様に残せたら嬉しいですね」
 20年というピアニスト人生において、及川自身「ショパンの音楽が身に沁み過ぎて辛い時期もありました。しかし今は作曲家との程よい距離感を掴めてきたように感じます。鍵盤は1センチしか沈みません。そこに持ち込む打鍵のスピードや重さの種類、それを可能にする筋力も、若い頃より充実しています」
 今回の「ショパンの旅」は、及川の新しい20年のスタートでもある。ホールで旅路を共にするのが楽しみだ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)

及川浩治 ピアノリサイタル 『ショパンの旅』 
2/15(日)14:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999 
http://www.ints.co.jp

他公演
1/18(日) たましんRISURUホール(立川市市民会館)
2/1(日) 長崎市民会館文化ホール
2/8(日) 仙台電力ホール
2/28(土)養父市立ビバホール
問:チケットスペース03-3234-9999