プラシド・ドミンゴ プレミアムコンサート

レジェンドの魂の歌声にひたる奇跡のひととき

©Fiorenzo Niccoli

 “オペラ界の帝王”と呼ばれるに相応しい大スター、プラシド・ドミンゴが5月に来日し、高崎、大阪、東京、名古屋でコンサートを開く。ドミンゴは今年で83歳という年齢にも関わらず、今でも世界中で引っ張りだこのスター歌手だ。昨年はホセ・カレーラスと一緒に、かつて「三大テノール」のツアーで共に歌ったルチアーノ・パヴァロッティに捧げるデュオ・コンサートのために来日し、衰えのない美声を披露してファンを熱狂させた。今年も様々な国でのコンサートが予定されており、イタリアの野外オペラで有名なアレーナ・ディ・ヴェローナでは8月に、「スペインの夜」と題したガラ・コンサートを開催する。ドミンゴは回遊魚のようなアーティストだ。生きている限り前に進むのがドミンゴ流、つねに泳ぎ続けることが彼のアイデンティティとなっているのだ。

 ドミンゴは声種をテノールからバリトンに変え、オペラの役柄で言うと父親、戦いに敗れた男、恋敵、などのより大人な、もしくは陰のある男を中心に歌っている。バリトンのために素晴らしい役を数多く書いたヴェルディのオペラを得意としており、例えば今回も演奏が予定されている《マクベス》からは、すべてを失ったマクベスが、自ら招いた運命を嘆くアリア〈裏切者め! 憐れみ、誉れ、愛〉が歌われる。また近年数多くの舞台で歌っている《椿姫》のジェルモン役は、第2幕で歌われるヴィオレッタとジェルモンの二重唱こそ、このオペラの白眉だと言っても過言ではない。もしくはフランス革命の時代を描いたジョルダーノのオペラ《アンドレア・シェニエ》におけるジェラール。革命の志士となった後も貴族の令嬢マッダレーナヘの慕情を断ち切れず、恋敵シェニエを執拗に追いかけるが、その一方で良心の呵責に悩む心を歌うアリア〈祖国の敵〉は感動的だ。

 スペインの音楽劇「サルスエラ」も哀感のある美しい旋律の宝庫だが、両親がサルスエラ歌手だったというドミンゴのルーツでもあるこのレパートリーは熱い血潮が感じられる曲が多く、耳にすれば「ああ、知っている!」と思う曲も多いだろう。

 ドミンゴを昔から知っている筆者が一番驚くのは、容姿は確かに年齢を重ねて変化を遂げているのに、その声は往年の輝きを保っていることだ。イタリア人歌手に多い明るい音色と比べると少しメランコリックな響きと潤いのある美声は、変わらない特徴を持ち続けており、鍛えている声は歳を取らないなぁ! という感嘆の気持ちで聴き入ってしまう。

 今回はベテランのマルコ・ボエーミが来日に同行し、新日本フィルハーモニー交響楽団(高崎、東京)と、関西フィルハーモニー管弦楽団(大阪)、セントラル愛知交響楽団(愛知)を指揮する。ソプラノ歌手も参加し、アリアやドミンゴとの二重唱で華を添えることになる。ドミンゴの声に長年親しんできたファンも、まだこのレジェンドに巡り会ったことがない人も、「その奇跡的な力に身をまかせる最後のチャンス」を逃さないようにしてほしい。
文:井内美香
(ぶらあぼ2024年3月号より)

2024.5/6(月・休)15:00 高崎芸術劇場 大劇場
問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900 
https://www.takasaki-foundation.or.jp/theatre/ 
5/9(木)18:30 大阪/フェスティバルホール
問:キョードーインフォメーション0570-200-888 
https://www.festivalhall.jp
5/12(日)15:00 東京文化会館
問:コンサート・ドアーズ03-3544-4577 

https://concertdoors.com
5/15(水)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール
問:CBCテレビ事業部052-241-8118 
https://hicbc.com/event/nimf/